時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「 なんて鮮やかな秋色。これがパタゴニアの色 なんだ。」

4月に入り空気が夏のそれから秋のそれに変わりました。晩夏の頃と気温は同じでも、秋の空気は厳しい冬の寒さを覚悟させてくれるシャッキとしたものを感じます。一日中ストーブを焚く日も増えていきます。
私が「ああ秋だなあ」と感じるのは実ったりんごが熟して木から落ち始める時からはじまります。拾うりんごの数が増え始める頃、ポプラの葉が黄色く変わります。そして日を追うごとに、すももが、柳が、さくらんぼが、名前は分からないけれど全住人が植えた灌木が黄色に変わります。それと同時にライラックが葉の縁から濃い赤紫になっていきます。カエデの葉ももう直ぐ赤く変わるぞ!という意気込みを感じさせてくれます。
きのこも出始めました。ヌメリイグチは数も多く見つけやすいので、毎年バケツ一杯取ってきて干しきのこにしたり佃煮を作ったりしていましたが 、持病の食事療法を始めてからは、自分が食べないので「出てくれてありがとう。」と声をかけるだけでキノコ狩りはしなくなりました。
例年なら3月初めにやって来る蜂鳥が、鳴き声はするのですが姿はほとんど見えません。きっと今年は自然の中にまだ豊富に食べ物があるんでしょう。
里のポプラや柳が透き通る様な黄色に変わり風景が黄金に輝く頃、アンデスの南極ブナが赤く山を染めます。それはもう少し先、4月の後半ですが、そうなるといよいよ冬がやって来るなあと身が引き締まります。
農場では明るい黄色、赤味がかった黄色、紅色、橙色の紅葉が多いですが、真っ赤に色づく木が一本だけあります。こちらでサウコと呼ばれる西洋ニワトコです。エルボルソンの街にはあちこちに大木があります。初夏は白い花を咲かせ、その花でクリスマス用のシャンパンを作り、小さな紫色の実はジャムにします。私はずっとサウコの木がある家を羨ましく思っていました。でも数年前の秋、家の南の少し隠れた場所で真っ赤に色付いている木見つけました。あっと胸がときめきました。もともとあったものなのか、播いた種から育ったのか、小鳥が運んできた実から発芽したのか分かりませんがひっそりと育っていたのです。
日陰なので花はあまり咲きませんが、紅葉は見事です。木も大きくなって目立つ様になりました。今年も真っ赤に鮮やかになって、私に秋の喜びを与えてくれています。
そこにいるだけ、そこにあるだけ。何の意図も無く誰かの心をときめかす事が出来る。怒りや憎しみの対象となってしまうよりもずっと難しい事ですが、私もそんな風に生きたいです。