時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ああ、そうか。いつか必ず夢は叶うんだ。」

年々乾燥化が進んで、ここパタゴニアでも夏にはほとんど雨が降らなくなり、毎年の様に大規模な山火事が起こっていました。ところが、今夏は十分でないにしても時々雨が降り、いつもよりしっとりとしています。晩春の遅霜もなく、果樹が大豊作です。
プラムは木の上で水分が抜けてドライフルーツになり始め、木の下では絨毯の様に実が落ちています。少し離れたところからでも甘い香りが漂っています。引っ越し当初はたった一本でしたが、今ではあちらにもこちらにも、思わぬ場所でも大きく育ち実を付けていました。梅干しを作ったり、ドライフルーツにしたり、ジャムを作りましたが、殆どはそのままです。
そして今はりんごが同じ状態です。プラムよりも農場のあちこちに散らばっていて、たわわに実のっています。
りんごも引っ越し当初は大きな木は一本だけでした。そしてその木にたった一個だけ実が付いていました。ワクワクしながら毎日見守って、赤くなった時食べました。「今までで一番美味しかったものは?」と聞かれたら、私は迷わずその時のりんごだと答えます。
近所には大きな木が何本もあってりんごがたわわに実っていていました。取りに来て良いよ。と言ってくれる人がいてバケツを持って取りに行きました。その時、早く我が家で、こんな風にりんごを拾いたいと思いました。
それからりんごやプラムだけでなく、手に入ったあらゆる種を播きました。寒くて育たないと分かっていても、八百屋で買ったレモンやみかんの種も播きました。果樹だけでなく栗や胡桃も播きました。毎年毎年それは変わることはありませんでした。
気がつくと20年という歳月が流れていました。
農場を歩くと、あの時播いた栗や胡桃が信じられなくらい小さいけれど、芽を出し育っています。サクランボは鳥が手伝ってくれて、私が滅多に行かない場所でも育っています。りんごもプラムも数えられないくらいの木が実を付けてくれました。
20年前に夢見た風景の中に今私は立っています。
人にとっては20年は決して短い時間ではありません。でも長い短いは問題じゃなかったのです。
思い続けること。楽しんで続けること。夢を見続けること。そうすれば必ず夢は叶うんだと分かりました。
とても拾いきれないですが、出来るだけ拾っていろんな場所に播いています。この子たちが芽を出し育って実をつける時、私はもうこの世界には居ないかもしれないけれど、それでもやっぱり楽しんで夢見て播き続けます。だってその子達に「ありがとう」と言って、美味しく味わってくれるのは、別に私である必要はないからです。
りんごを見ながら、半世紀以上生きて来た私でも、豊かな気持ちで20年、30年、100年後の夢を見る事が出来る今を幸せだと思います。