時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「美味しいよ〜!ありがとう、りんご達」

りんごの花が満開の時、何時も「遅霜が来ませんように。みんなが実になれます様に。」と願っていますが、大体遅霜で花が焼かれてしまいます。農場には自然に芽を出し育ったりんごが何本もあり、花の咲く時期も霜の降り具合も違いますから収穫ゼロという年はありませんが、ジャムも作れないほど少ない時もあります。ところが今年は大豊作。しかも今迄気が付かなかった場所や初めての実りの木も沢山あって、強欲な私でも拾いきれずにそのままにするしかありません。
りんごを絞ってジュースにする道具を持っている農家もあって、りんごを持っていけば有料で絞ってくれる所もあると聞きました。でもわざわざ探して連絡を取って持って行く手間を考えて躊躇していました。りんごは私の為に育ったのではないんだし、鳥が喜んだり、大地が豊かに肥えて行くんだからそのままでも良いや、と思っていました。
でも自家製リンゴ酢を作りたくなって、りんごを絞ってくれる場所を探し始めました。マジン村の奥に一軒見つけましたが、電話のない私は直接行ってみるしかありません。道も悪いし、結構遠いし、となかなか行動に移せませんでした。そんな時日本語教室の生徒さんが、自家製りんごジュースを持って来てくれました。野菜農家で直売もしている彼の農場で、今年りんごを絞る機械を購入したと言うのです。主に高校生の弟の仕事で、絞ったジュースの半分を手数料として貰い、それを売って修学旅行の費用とすると言うのです。
なんと言う幸運!
場所は隣町で40kmほど離れていますが、マジン村をぬけると道はほとんど全て舗装で行きやすい場所です。腐っていないりんごなら虫食いでも、小さくても構わないと言うし、彼の農場へも遊びに行きたかったし、彼の弟も小学生の頃私の生徒さんで久しぶりに会いたかったし、話はトントン拍子に決まりました。
約束の日の前日にりんご集めをしました。木の上には実がまだまだ一杯ついていましたが、無理して落とす必要もないと思い、落ちている大きめの綺麗なりんごだけを拾い集めると50キロ位になりました。すこし少ない気もしましたが、強欲な私が集め出すときりが無いと思い止めました。
彼の農場にお昼前に着いて早速絞ってもらおうと思ったら、最初にお昼ご飯食べようと、当たり前の様に私の分もテーブルに用意がしてありました。野菜農家だけあって旬の南瓜、人参、馬鈴薯、赤ビート、そして最後のとうもろこしがどっさりと茹でてあって、自家製ケチャップとマヨネーズをつけてお腹いっぱい頂きました。(勿論アルゼンチンですから、私は食べませんが、肉もど〜んとテーブルのメインに置かれていました。)
家族でワイワイ話ながらお昼ご飯を食べる。当たり前の事かもしれませんが、とても明るく暖かい雰囲気に包まれていて、今の私には何だか凄く新鮮で楽しかったです。
さてりんご絞りです。最初にりんごを軽く洗い、それを一番目の機械に入れて細断します。写真では見えませんが、砕いたりんごを袋に集めています。そしてその袋を第二の機械で絞ります。
砕くのは電動ですが、絞るのは手です。そして機械と言っても手造りで、手に入る材料を使って作っていてとてもシンプルな物でした。
普通3キロのりんごから1リットルのジュースが絞れるそうですが、我が家のりんごは小さいからか50キロで14リットル位でした。
味も濃厚さが足りない感もありましたが、それでも我が家初めてのりんごジュースです。愛おしくてたまりませんでした。野菜を買いにきていた人が私たちが絞る作業を見ていて、是非そのジュースが欲しいと買って行ってくれました。(勿論代金は弟マルコ君のものです)
我が家の野生りんごの初絞りを知らない誰かが味わってくれると思うと嬉しくてワクワクしました。
結局10リットルのジュースを持たせてくれ、7リットルでリンゴ酢を仕込み、残りは美味しく飲みました。
生食も好きですが、ジュースもまた格別です。また毎朝薪ストーブのオーブンで焼きりんごやアップルパイを作って食事として食べています。砂糖なんか入れません。そのままのりんごの味を楽しんでいます。
りんごを食べながら、りんごジュースを飲みながら、私はここで生かされているんだなあとしみじみと感じています。
今はどんなリンゴ酢が出来るのか、とても楽しみです。