時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ネマガリタケの新芽」

前回はネマガリタケの花のお話でしたが、今回は新芽つまり“たけのこ”の事を書きます。

11月はこのネマガリタケの新芽の季節です。のうじょう真人には多くのネマガリタケの群生があります。ここに住み始めた頃は、この新芽の収穫が楽しくて楽しくて、農場を3地区に分け、ローテーションを組んで毎日収穫に行っていました。どっさり取れる新芽の皮をむき灰汁取りをした後、味噌汁、てんぷら、油いためなど毎回の食事で楽しみ、残りは天日に干したり瓶詰めにしたりして保存食としていました。

けれども一昨年から、保存食つくりは止めました。天日干しは確かに立派な保存食ですが、正直言って美味しくないのです。作るのにも食べるのにも手間がかかるわりに美味しくないので、飢饉用に保存はしてありますが、新たに作るのは止めました。瓶詰めは味と食感は多少落ちますが許せる範囲で、季節外れにこられたお客さんのおもてなしに重宝でした。でも・・・この瓶詰め、塩加減と殺菌がなかなか難しいのです。

私にはこういう繊細な保存は向かない様で、瓶の中で発酵させてしまい蓋を開けた途端に、中身がどっと噴出して大変な目に何回も遭いました。これではネマガリタケに失礼です。ここで、きちんと作ろうと努力と工夫をしないのが私なので、保存はやめ!という事になりました。けれども保存を止めた一番の理由は、収穫が年々大変になってきていることです。若い頃はひょいひょい行けた場所も、今では「しんどいなあ・・・」という気持ちが勝ってしまって、以前の様に張り切って収穫したいと思えなくなったのです。

今は毎朝の散歩の時、気楽に楽しみながら新芽の収穫をしています。本当に美味しい大きさの物だけを収穫して、その日のうちに頂きます。毎日の食卓に乗せる分ならそれで十分です。

パタゴニアは自然が厳しく大地も若いのか、自生の植物も動物、昆虫、魚、鳥も種類と数が驚くほど少ないです。ですから野草山菜類も殆どありません。私たちは旬の味覚を楽しみたくて、農場内で食べられるものを探しては頂いていますが、数の少なさに「見て」楽しむだけの物もあります。けれどもこのネマガリタケの新芽だけは、質量とも十分でおまけに美味しいのでとても有難いです。

訪れるだけ、遊びに来るだけでは分からない暮らしの醍醐味。この山菜取りもそのひとつだと思います。自分で探し、自分で収穫し、自分で皮をむき、自分で料理した採れたての山菜の美味しさは、高級料亭の料理に匹敵すると思います。

11月いっぱいがこのネマガリタケの旬です。またこの時期は木の幹に出るジャオジャオきのこ、アミガサタケ、ホップの新芽の季節でもあります。花もいっぱいで気候もすごしやすく、パタゴニア旅行のお勧め時期です。観光ではなく、パタゴニアの田舎暮らしを体験してみたい方、是非農場真人に滞在して、一緒に藪をかき分けネマガリタケの収穫をし、晩春の味覚を楽しみましょう