時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「笹の花」

パタゴニアは春たけなわ。さくらんぼやプラムの花は終わりましたが、今はりんご、花梨の花が満開です。野生ランも黄色い花を咲かせ、あたり一面に甘い香りを漂わせています。ライラックは紫の花を空に向かって開き、カラファテは小さなオレンジ色の花を株いっぱいにつけています。野ではタンポポが黄色のじゅうたんを作り、ルピナスも咲き始めています。昨年は季節外れの春の大雪で果樹の収穫が殆どありませんでしたが、今年は豊作が期待できそうです。

ところで今年、我が家のネマガリタケの一株に花が咲きました。笹の花を見るのは初めてです。農場のネマガリタケは群生になってはえているのですが、この花の咲いた株はたった一株だけ、ぽつんと離れて道沿いにはえています。とても大きな株ですが、毎年春になっても新芽(タケノコ)を出したことがありませんでした。

春先から何メートルも上に伸びていた竹がだんだん下がってきているので、おかしいな・・・と思ってよく見たら、薄紫の小さな花のつぼみがびっしりついていて、その重みで下がっていたのです。

日本で竹の花が咲いたら不吉だと聞いた事がありました。ネマガリタケは竹ではなく笹の仲間で少し違うかもしれませんが、不吉を感じるより私は始めて見る花のかわいらしさに感動し嬉しくなりました。でも、普段咲かない花が咲くというのは、私たちに分からない何かをこのネマガリタケは感じているに違いありません。

ネット検索してみたら、ネマガリタケは4,50年に一度花を咲かせ、花の咲いた株は枯れてしまうのですが、10年後にまた生えてくるそうです。と言う事は、この大株は今年で枯れてしまうことになります。

50年というと私たちと同年代。私はタイムマシンに乗ったように、急に自分の子供時代からここに暮らし始めるまでのいろんな事を思い出しました。そしてこの株も同じ時代を生きてきたんだなあ・・・と不思議な感傷に浸ってしまいました。

気づいた時つぼみだった花は今開き、花粉を飛ばしています。農場にはあふれるほどの花が咲いていますが、蜜蜂がこの笹の花にも来ています。数ある花の中からこの笹の花を選んだ蜜蜂。その姿を見ていたら、自然農法の故福岡正信氏の「過去も未来も今一瞬のこの時の中」という言葉が素直に心の中に染み渡ってきました。

誰にも先の事は分かりません。特にアルゼンチンという異国で暮らしている私たちには明日のことさえ確実なことは何も分かりません。でも私はこの花を見て、今年この株が枯れてしまっても、10年後の再生の時にここに居たいと強く思いました。

10年後の再会の時、私の周りは私の大好きな人や自然があふれ、今以上に幸せで楽しい気持ちでいると信じています。