時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

心で見ること

あっという間に8月も一週間が過ぎました。

相変わらず雨が降らず、山には雪がありません。朝夜は気温がグッと下がりマイナス2度3度、時にはマイナス5度以下にもなりますが、日中は眩しい青空に、太陽がサンサンと輝き朝と同じ服で作業すると、ほんのりと汗ばんでしまいます。

暖冬は今までもありましたが、こんなに乾燥して暖かい冬は初めての気がします。

ギリシャアメリカ合衆国では猛暑で山火事が広がっていますが、この夏アルゼンチンでも同じ事にならない様に祈るだけです。

 

昨年コロナが始まった時、一時、豆腐や味噌の卸も日本語教室も中止にしていました。3ヶ月ほどで、お店の希望もあり豆腐味噌の卸は再開しましたが、日本語教室は閉鎖にしました。

でも3年ほど教えていた女の子は休止していた時期も、時々日本語でメールを送ってくれていました。私も彼女のメールを添削してあげたり、簡単な日本語で返事を書いたりしていました。

ある夏の日、「お母さんが犬を持ちました。名前はアヌクです。」という文面と子犬の写真が添付されてきました。

「お母さんが子犬をもらってきたの?ひょっとしてアルゼンチンドゴ?」

「はい。お利口です。」

 

おおおお~!恐怖?のアルゼンチンドゴ。

 

日本には柴や秋田犬などの和犬がいますが、アルゼンチンにはアルゼンチンドゴというアルゼンチン原産の狩猟、闘犬がいます。

平均体重が40~45キロ、体高が60~68cmと大型犬です。でも実際に見たことはありませんでした。飼い主でも必ず一回は噛まれるとか、プライドが高く攻撃的とか聞いていて、恐いイメージしかありませんんでした。実は私、犬は大好きですが反面とても怖いのです。アルゼンチンドゴなんて見たら、絶対近寄らず逃げます。

「かわいいね。」でその時は終わりました。

 

ところがコロナの規制が緩み、割と自由になった頃、彼女が日本語の勉強を再開したいと言ってきました。町の郊外で豆腐の卸の後、通える場所に住んでいます。

日本語も日本も大好きな子で、その気持ちを大切にしてあげたいと思い家庭教師を引き受けました。

家に着くとワオワオすごい吠え声が聞こえます。ああそうだ…。ドゴが居たんだ。もう子犬じゃないよなあ…。

彼女はお母さんと2人暮らしで、お母さんは昼過ぎまで仕事で帰ってきません。

彼女だけで大丈夫かな?こわごわ車を降りると、太い紐につながれた吠えまくる大きな犬を、彼女が抑えています。今のうちだと急いで家に入りました。

 

女の2人暮らしなら、あのくらいの犬を飼っておく方が安心だけど、大変だろうなと思いました。

 

ところが、何回も通ううち、このドゴがとっても怖がりで甘えん坊でかわいい子だと分かりました。寒い日は家の中で一緒にいます。

話を聞くと、子犬の頃飼い主に虐待されていたのを保護された子だとか。純血のドゴでは無いけれど、見た目は迫力満点です。

アヌクに会うたび、今は亡き姫ちゃんを思い出し胸がキュンキュン痛みます。

姫もシェパードの血が入った体の大きい子で、声も太くよく吠えたので、周りからは悪い犬だ。危険な犬だ。と言われていました。でのそのお陰で我が家に知らない人がやって来ることがなく、最高の番犬でした。本当はとても子供好きで甘えん坊で気の小さい優しい子でした。

自分は悪者になって嫌われ者になって、そうして私を守ってくれていました。

 

アヌクに会うたび思います。

私はいつも偏見や先入観を持って、大切な事、物の本質を見逃しているんだと。

星の王子様で狐が言った言葉。

「大切なことは目では見えないよ。心で見ないとね。」

 

大好きな言葉です。いつも噛み締めています。でも私の心はまだまだ曇っています。

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ちゃんとソファーに座ってます