時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

おもしろい体験

6月末に降った雪が溶けずに農場を白く飾っていたのですが、木曜日からの雨ですっかり姿を消してしまいました。
今年は太陽の照る日が殆ど無い、どんよりと暗い冬を迎えています。
冬でも天気の良い日は外に出て、枝を払ったり枯れ木を切って薪の準備をしていましたが、今冬は2ヶ月以上外仕事が出来ずにいます。
でも雨は好きです。夏の旱魃を思い出すと、水がある、周りに湿気があると言うのは「ほっ」と落ち着きます。

ところで、我が市は電気代の請求が2ヶ月に一度あります。町の人は各家庭に郵便で請求書が配達されますが、我が家のある地区は町から離れているし、番地も無いので郵便は届きません。
それで奇数月に郵便局へ請求書を取りに行きます。
ネットが普及する前は、郵便が届くのが楽しみで、町に行くたび郵便局へ寄っていましたが、今では電気代の請求書を受け取りに行くだけになってしまいました。
今月はなかなか請求書が届かずに、3回も郵便局へ行くことになってしまいました。
雪が降って、メーターを見に来るのが遅れたのかなあ?面倒臭いなあと思っていました。
請求書が来ても、郵便局では支払いが出来ず、それを払うためには別の場所へ行かなければなりません。支払い日は、当たり前ですが皆が行くのでいつも行列です。
500m位離れた支払所へ向かいながら、インフレのアルゼンチン。今月は一体幾らに値上がったんだろうと請求書を見て、「???」と立ち止まってしまいました。
支払い金額の場所には0が3つ並んでいるのです。
「やだなあ!こんな間違いされたら、電気局へ行かなきゃあいけないじゃん!いつも凄い混んでいるから買い物する時間がなくなるじゃ無い!」
「でも間違えたのは私じゃ無いんだから、知らん顔していれば良いか?」
「放っといて電気止められても馬鹿らしいなあ。」
色んな考えがグルグル頭を巡りました。

それで町に住む情報通の友人に相談する事にしました。
「あのさあ、電気代の…」全部言い終わらないうちに
「ゼロだったでしょ!?」と返事が返って来ました。
「ええ〜。皆んなそうなの?」

彼女の説明、スペイン語で詳しくは分からなかったのですが、去年の大雪と今年の雪で停電になった事で、多数の住民が電気局へ文句を言ったらしく、電気代を今回だけ大幅に値下げする事になったそうなのです。
消費電力の限度を設け、それ以下の場合はタダ。それ以上は超えた分のみ請求になったそうです。

町の生活は冷蔵庫も掃除機もテレビも電子レンジも当たり前。電気温水器で24時間お湯が出ます。暖房もガスと電気を使っています。電気が無い生活は死活問題に関わると言っても大袈裟ではありません。去年の大雪後、自家発電機が倍以上値上がりしたにも関わらず売りきれ、町の店から消えたそうです。
ですから、文句にも恐ろしく力が入っていたことでしょう。青筋立てて身振りをまじえ騒ぎ立てる姿が目に浮かびます。
気の弱い私なんかには決して出来ない事です。
でもそのお陰で今回は電気代無料と言う面白い体験をさせてもらう事が出来ました。

我が家は水路から電気ポンプで水をタンクに汲み上げて使っています。ですからずっと電気のない生活は出来ません。でも電気が無くても困らない生活、楽しめる生活を目指していきたいと思っています。

電気、ガス、ガソリン。燃料がどんどん値上がっていきます。電気代は消費量は変わらないのに、5年前の5倍以上になりました。日本に比べると安いと言われますが、私は円や米ドル生活者ではありませんから、安いとは思えません。
でもそれでも、文句や不満を言うよりも、自国が経済破綻していても、今が良けりゃあそれで良し!と面白しろ可笑しく暮らしているこの国の南米気質の良い部分だけは見習って、毎日を楽しみたいと思います。