時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

新年に思う事

2023年が始まりました

パタゴニアは強風が吹き荒れる暑い新年を迎えました。毎年クリスマスイブと大晦日に聞こえる爆竹音と大騒ぎが、今年はありませんでした。インフレで騒ぎが年々小さくなっていましたが、全く聞こえなかったのは初めての事です。

以前は10月頃から年末の大騒ぎが憂鬱でした。当夜は怯える犬達を落ち着かせながら大騒ぎを憎々しく思っていました。ですから私にとっては思いがけない幸せな年の始まりでした。

でも、騒げない経済状態になってしまったことの方が問題なんですけど。

 

アルゼンチンはクリスマスから2月まで夏季休暇で、殆どの人が1週間から1ヶ月の夏休みを取り旅行します。借金してでもバカシオンに行くというお国柄。今年は海外に行く人も多いですし、エルボルソンにやってくる人も多いです。

当然日本語教室もお休みにしました。豆腐の卸は変わらずにあったので、今まで授業に当てていて時間が空きました。それで観光客気分で町の中心を歩き、中央にある広場の人工池にかかった立派な橋を渡ってみました。

橋の欄干に鍵がたくさんぶら下がっています。

「何なのこれ?」と思った私の年齢が分かってしまいます。

これは恋人達が橋の欄干に南京錠をつけて鍵を川に捨て、永遠の愛を誓うと言うフランスの真似をした儀式?だそうです。

盛り上がっている時はいいけれど、一体何組のカップルがこの鍵の思い出を大切にずっと育んでいくんだろう?と夢のないおばさんは考えてしまいました。

日本語の若い女の生徒さんが、鍵の重みで欄干が壊れてしまったり、別れたカップルの片割れが南京錠を壊しに来たりすると教えてくれました。やっぱりね…

でも今までにはなかった町の風物詩です。

 

そしてもっと驚いたのは郵便局の横、町の真ん中に赤い電話ボックスができたことです。

自動販売機やコイン電話ボックスなど、すぐに壊されお金を取られるので、恐らくアルゼンチンのどこにも無人販売機なんてないでしょう。私は常々自動販売機ほどエネルギーの無駄使い、ごみを増やすだけの無駄な物はないと思っていましたから、理由は別にしてもアルゼンチンの自販機のない風景は気持ちが良いです。それが突如としてこのご時世に電話ボックスが現れたことに驚きました。ところが、よく見ると、中には本や雑誌が置いてあります。

私が行った時はしっかり鍵がかけられていましたが、これは誰もが自由に中の本を読むことが出来るボックスなのだそうです。日本のように充実した図書館がなく、町の図書館も本は全て寄付です。時々公園などで机に古本を並べて売っていますが、結構人が立ち止まっています。ですからこういう形で自由に読める本があることに、喜んでいる人も多いでしょう。

私は良いなあ、良い風景だなと思いました。そしてこういうボックスを置くことが出来る環境の町である事を嬉しく思いました。

若い頃はアルゼンチンに不満もありましたが、今では年々アルゼンチンが、今いる場所が、今の自分が好きになっています。

今まで私は数え切れないくらいの人たちに助けてもらって来ました。当時は気づけなかった恩も今になって分かります。恩返しなんてとてもとても出来ません。したくても、もう出来ない人の数も増えています。申し訳ない。有難い。そうもどかしく思っていた時、恩送りという言葉に出会いました。

恩は返すものじゃなくって、次に送っていくものなんだと。

だからこれからは受け取った恩を、私に出来る形で次に送っていこうと決めました。私が受け取った恩の何十分の1かでも送って残して行けるようにしていきます。

今年の、これからの私の目標です。

 

https://www.instagram.com/chacraarigatou/

可愛い電話ボックス