時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ひろがる花畑」

また今年も夏の新年を迎えました。大晦日の爆竹音とそれに続く大音響のずんちゃか音楽の大騒ぎ。大騒ぎするのはいつも一握りの家族だけですが、よくまあこれだけ他人迷惑を考えずに騒げるものだと感心します。

一応年末は大掃除をし、元旦は日本の友人がお土産でくれた日本のパック餅でお雑煮を作りましたが、それ以外はいつもと変わらず注文の豆腐を作り、薪集めをし、日本語教室の予習をして過ごしました。伝統的な日本のお正月は、遠い懐かしい思い出となりましたが、こんな呆気ない新年も今は気に入っています。

今年もさくらんぼはたわわに実をつけてくれました。木が大きいので実に手が届かず、小鳥が食べているのを指をくわえて見るだけです。日が長いので、露天風呂にはまだ太陽が出ているときに入ります。お風呂に浸かりながら見上げると、真っ青な空、真っ赤なさくらんぼの実、緑の葉が揺らめいて綺麗で、幸せの景色だとしみじみ感じます。

アンデスの山百合アマンカイも咲きました。野生大根の菜の花も風に揺れています。ルピナスエニシダは種になり始めました。種が熟したら、また農場中に播こうと思います。

こうして毎年繰り返される自然の営みに、毎年同じように感謝し感動しています。

草も伸びて、町ではいつでもどこかで電動草刈機で草刈りをしています。天気の良い日は家の周りでも電動草刈機の音が聞こえる様になりました。町の中心街にある家では、草ぼうぼうだと役場から草を刈る様に通達が来るそうです。たとえ通達がなくても、みんな草が大嫌いで、まめに刈っています。ところが我が家では、通るのに不便とか、薪を置くのに邪魔な場合以外刈りません。そこまで手が回らないこともありますが、草を生やしておく方が大地の乾燥が防げるからです。

今夏は低温ですが雨が多く湿気があり、草が勢い良く伸びています。種が着く前に、穂先だけ刈っちゃおうかなと思い、鎌を持ち出しましたが、草に手をかけて“はっ”としました。

当たり前ですが花が咲いていたのです。

そして思いました。アマンカイや薔薇やルピナスや芥子や…色が綺麗で華やかで香りが良い花が咲く植物は大切にして、自然の草は雑草と言って仇の様に刈っていく私達。でもこの子達もこうして花を咲かせ種を残し、命を繋いでいるのです。それは花壇に咲く花達と何の変わりも無かったのです。

草ぼうぼうを許されない環境もありますが、我が家は誰に迷惑をかけるわけでも無いのだから、自分の都合や価値観だけで自然を管理していくのはやめようと思いました。

犬達が隠れんぼし、大地の湿気を保ち、風にゆさゆさなびいて私に囁きかけてくれる、地味だけど力強い花畑。今一緒にいるという事を大切にしたいと思います。



-