時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「蜜蜂乱舞」

農場の最初の門から家までの約500メートルの道は、両側の木が育ち、緑のトンネルを通っている様です。空は狭くなったけれど、私はこの緑のトンネルがとても気に入っています。
家の前は少し広くなっていて、車を止めたり、運んで来た木を切ったり割ったりして薪にする場所としています。家はそこから少し低い場所に建っています。玄関へ行くまでにさくらんぼの木と、名前を知らない木の間を通ります。両方の木が枝を伸ばし、最後の小さな緑のトンネルになっています。
さくらんぼの花は終わりましたが、今名前を知らない木の白い花が満開です。この木は15年以上前に私が友人から頂いたものです。片手で持てる小さな苗木でした。それが大木とは言えませんが、気がつくと見上げる木に育っています。
花は独特の強い香りがあります。その香りに惹きつけられるように、天気が良い日は少し離れたところからでも蜜蜂の羽音が聞こえてきます。引っ越し当初は養蜂で生計を立てるつもりで、農場に50群近くの蜂箱を置いていました。あの当時は今ほど乾燥しておらず(年間降水量は1200ミリから500ミリに減りました)、近所の人も自家用に蜂箱を2、3群持っていました。ですから花の時期には蜜蜂たちが農場中で可愛い羽音を響かせながら蜜や花粉を集めていました。蜜蜂は私のとても身近な生き物でした。
それが乾燥化で花の蜜が出なくなったのか、春先の低温、夏の異常高温の気象変化でか、ダニ防止用の劇薬を使わなかった為か、どんどん蜜蜂が減ってしまいました。毎年来ていた分封も来なくなり、結局10年ほどで養蜂に見切りをつけました。我が家だけでなく、周りに蜂群を維持している人もいなくなりました。それでも毎年僅かですが花の時期には、どこから来るのか蜜蜂達はやって来ていました。
今年は低温の春ですが雨が例年より降り、どの果樹の花も満開で何年ぶりかに蜜蜂の分封も見ました。そして天気が良い日は、白い花の周りで乱舞する蜜蜂達の羽音が響きます。
時々私は立ち止まって、この木の下で花の香りと蜜蜂達の羽音を楽しみます。すると幸せで楽しい気分になります。何も考えません。思い悩むことなんて何も無いんだと素直に思え、ゆったりとした気持ちに満たされます。
今一緒にいる。今ここに存在している。それだけで十分。理由なんか必要無いんだと思います。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。言っても言っても言い足りない気分です。
幸せって、こんなにも身近に豊かに私の周りにあったのだと、改めて気付かされる毎日です。


今期はリンゴもすもももさくらんぼも大豊作になりそうです。
ライラックの紫の花が、大地には大きなタンポポが咲いています。カラファテの小さな黄色の花も野生ランも咲いています。