時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「変わる?変わらない?大事なのは今を生きる事なんだ。」

サラサラ。シュラシュラ。
早朝、まだ人が起き出していない静かな時間に聞こえる音。
「あれ?どうして小川の音が…」と一瞬だけ不思議な感覚に包まれます。そしてそれが、わずかな風に舞い落ちる黄葉した葉っぱの触れ合う音だと気付きます。
ポプラ、りんご、さくらんぼ、柳、楓、南極ブナ、クヌギ、すもも、かりん、白樺…。
アンデスの山を見ると、今年も見事に紅く染まっています。ああ、あの紅葉の中を歩いてから、もう10年近く経つんだ。あの時は日本から女の子が1ヶ月のホームステイに来ていて、一緒に登ったっけ。彼女どうしているかな?新婚旅行でまた来ますって言ってくれたんだけど。
犬のらくうと一緒に登った事もあったな。あの時は途中でらくうが野ウサギを追いかけて居なくなって、夕暮れが迫って来たから山に置いてきぼりにしちゃったんだ。山の麓まで毎日行ってみたけど会えなくて、3日後また登山して探しに行ったら、途中から登山道に犬の足跡があってらくうだと確信して、居なくなった場所で名前を呼んだら、何度目かにウオーンと大きな声で応えてくれて。置いてきぼりにした私の声に応えてくれたらくうと、らくうを守ってくれた山に心から感謝したっけ。
山の紅葉を見ていたら、いろんな事が思い出されました。1年に1回は必ず登った山でしたが、スキー場開発でズタズタにされてしまってからは行かなくなりました。山も変わってしまったけれど、私の状況も変わって、あの時には思いもしなかった今を生きています。いろんな思いがあって、そのお陰で今があって、そして未来に繋がって行くのでしょう。
毎年毎年見て来た紅葉の風景。でも決して飽きる事はありません。それどころか、ここで生かされているんだと言う思いがどんどん強くなっていきます。
アンデスの山だけでなく、 農場を歩いても同じ思いに駆られます。
水桶に舞い落ちた葉っぱ達。
ああ綺麗だなあ。一枚一枚全部違って個性があって。今同じ空気を吸って同じ時を過ごしているんだなあと心が一杯になって、目を離すのが惜しい気がします。
この先何があっても、どうなっても、恨む事なく全ての幸せを願っていきなさいと小さな葉っぱに教えられています。