時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ああ〜やっぱり面白い。ゆっくり私らしく続けていこう!」

パタゴニアに来てから焼き物を始めました。きっかけは最初に食事を招待してくれた隣人の奥さんが、村の生活向上センターの焼き物教室の先生で、参加を誘ってくれたことです。
言葉を覚えたい、知り合いが欲しい、どんぶりが欲しいと理由はありましたが、一番大きかったのは授業料が格安だったことです。
週2回歩いて2時間くらいの場所にあるセンターに通いました。
半年後の修了式に、作った焼き物の展示販売をしました。最初に来た人が、わたしの作った犬(当時飼っていたチョリ君がモデルでした)付きのロウソク立てを買ってくれました。嬉しかったです。初めてアルゼンチンで手にした自分の収入でした。
あの当時は一緒に焼き物をする相棒もいて、窯を作り自分達の焼き物を始めることができました。私はもっぱら粘土と作品作りをし、窯焚きは最終段階の忙しくなる時だけ参加していました。
釉の原料となる石や土を求めて乾燥地帯を旅しました。ブエノスでの展示会も経験しました。アルゼンチンにはない感性の焼き物で、少ないですがお得意さんも出来ました。私は焼き物を通して大きな感動を得、多くの事を学んだと思います。
実はここ3年、1日1体の作品作りしかせず、昨年の6月からは精神的にゆとりもなくなり、それさえもしなくなりました。陶芸工房は物置と化していました。
でも昨年11月、不安や心配をするのは止めよう、何時も全てのことに全力を尽くしていこう、人が言うほど私は駄目でもいい加減でもない、何を言われても自分に自信を持とうと決めました。
ずっと一緒にいてくれる自然たちが好き。犬も猫も好き。日本語教室も好き。豆腐や味噌作りも好き。薪準備も好き。ぼーっと星空を見るのも好き。露天風呂も好き。
あっそうか…、好きな事がいっぱいある此処での暮らしが好きなんだ。と改めて思いました。
嫌な事も困る事もあるけれど、それは私が学ぶ時、きっと一番いい方法で解決が見つかると信じることにしました。
1日1体で作った作品たちを薪ストーブで焼きましたが、この冬の寒さで殆どが崩れてしまいました。土から生まれたんだから土に還って行くなんて言っていたけれど、それは間違いです。きちんと高温で焼いていればこんな風に崩れたりはしません。申し訳ない事をしたと反省しました。
そうしたら急に窯焚きしよう!と意欲が湧いてきました。
以前に作った作品もあるし、窯も多少修繕すれば使えるし、乾いた松の薪も十分あるし。
窯焚き日を決めたら、その前日にまとまった雨が降り火事の心配もなくなりなり、当日は風の季節には珍しく穏やかな日で、安心して窯焚きが出来ました。頑張れって見えない力が応援してくれている様でした。
体力的に考え15時間前後を目処に焼きましたが、炎の色ばかりに気を取られ、作品を見るのをおろそかにしてしまい、気がついたら前面の作品が溶けて崩れ始め、慌てて窯どめをしました。12時間45分の窯焚きでした。
3日後ドキドキしながら窯開けをしました。
焼締風の土鍋、土から出た自然の碧や白。松の灰を被った黄色のすり鉢。
出来た出来た。私でも出来た。自己満足の世界ですが、作品を取り出しながら涙が出てきました。
パタゴニアの暮らしは厳しい事もたくさんあります。体力的にも経済的にも何時まで続けられるか分かりません。でもこんな感動があるから、先の事は思い悩まないでいようと思えます。やれるところまでやってみようじゃないの、と開き直れます。

改めて思います。私を守ってくれる自然と此処まで導いてくれた人達のお陰だと。
心から「ありがとうございます。」