時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「変わらない良さ ボコボコドロドロ」

我が家は街から約17km西にあり、標高が100mほど高くなっています。街から5kmは国道の舗装道路ですが、マジン地区に入ると土道に変わります。ここ数年急激に増えた人口で、交通量も増え、建築資材を運ぶ大型トラックも頻繁に通る様になりました。
当然道はボコボコの洗濯板の様になります。夏の乾燥期は、前が見えなくなるほど土埃が舞い上がります。月に一回か二回はトラクターが道直しをしますが、直ぐにまたボコボコになります。
今冬は雨が多く水たまりがあちこちに出来ています。また夜に土道が凍り、日中陽が当たると表面だけが溶けて、ぐちょぐちょのそれは酷い状態になります。
「道を舗装に」という署名運動が何年も前から始まっています。
実は私達はその舗装運動に反対なのです。はっきり反対を表明すると変人扱いされるので、そう言う運動には関わらない様にしています。
以前我が家に遊びに来た日本人の方が、「田舎暮らしに執着するのは分かるけど、便利になることは良いことだって素直に認めなきゃあ」と言いました。
確かに舗装道路は車も汚れず痛まず、土埃もたたず、運転も楽で積荷が崩れることも無く便利かもしれません。でも便利が良い事だとは全然思えません。
舗装道路になったら、柔らかい土道と違い牛や馬の脚が直ぐにダメになります。
皆んながスピードを出す様になります。今だって横切っている鶏や野ウサギを平気で轢いて行く人が多いと言うのに、もっと事故が多くなるでしょう。
冬の雨の翌日など道路が凍ったら、溝がない様なタイヤを履いている人が多いので、スリップ事故が急増するでしょう。
保水ができず、周りの木や草が死んでしまうでしょう。
街から来やすくなり、ますます人口が増え、木が切られ家が建ち緑がなくなっていくでしょう。
パタゴニアでも温暖化が問題になっているのに、木陰が減り舗装が気温を下げなくし、もっと温暖化が進むでしょう。
それらの何処が良い事なんでしょう?
ボコボコの道はゆっくり走ればいい事です。それが嫌なら街に住めば良いと思います。そう思うのは自分勝手な考えでしょうか?
変わらない良さ、便利じゃない良さはあると思います。少なくとも私は今よりも20年前の移住当初の方がずっとずっと楽しく好きでした。
便利になる事を否定するのではありません。でも人間にとっての便利さだけを追求していく事の怖さを感じます。
車はスペイン語で男性名詞ですが、私は自分たちの車を「エディちゃん」と呼んでいます。それはアルゼンチンの車のナンバープレートは3つのローマ字と3つの数字からなっており、我が家の車は「EDY○○○」だからです。
「エディちゃん。がさつで運転が下手な私だけど、このボコボコ道をこれからも一緒に走って行こうね。いつも本当に有難う!」