時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「再会。ドキッ。」

焼き物を始めて15年以上です。パタゴニアへ来て、村の生活向上センターの焼 き物教室に参加したのがきっかけです。
特に焼き物に興味があった訳でなく、たまたま隣人がそこで焼き物を教えていて 誘ってくれ、言葉を覚えたかった事、友人が欲しかった事、自分たちの 食器を 作りたかった事、月謝がただみたいに安かった事から私一人が参加しました。
でもそれがきっかけで主人が粘土や窯や鉱物に興味を持ち、自分達で原料を探し に色々な場所へ行き、自宅に小さい穴窯を作り、自然原料から釉薬を作 り、自 宅の粘土で作品を作って焼く焼くようになったら、世界が広がりました。
あの当時はコップやシュガーポット、バター入れなどに犬をつけて足跡の模様を 入れたり、擬人化した動物の線香立てを作ったり、子供の工作の様な作 品ばか り作っていました。ところがそんな焼き物を作っている人などおらず、面白がっ て買ってくれる人がいました。
スサーナも私の作品に一目ぼれしてくれた一人です。それがきっかけで付き合い が始まり、今ではアルゼンチンでの一番古い仲の良い友人です。知り 合ったの はエルボルソンの青空市場で彼女はブエノスアイレスから来ていましたが、彼女 の息子夫婦はエルボルソンから40km南のエプジェンに住ん でいました。当然 息子夫婦とも仲良くなり、わが家からは60km離れているエプジェンがとても 身近な町になりました。
以前はガソリン代が安かった事もあり、半分はボランティアでエプジェンの文化 センターで週一回焼き物教室をしに通った事もあります。ちょうどエプ ジェン が観光地を目指している頃で、湖畔の文化センターをお土産屋と喫茶店にする計 画も始まっていて、私達の食器をそこで使ってくれる事になりま した。ただ私 達に数の揃った作品が無く、文化センターの予算も無かったので、コーヒーカッ プや皿など単品で納入してくれました。
お店で使ってもらえるなんて初めての事で、嬉しい様な恥ずかしい様な不思議な 気持ちがしました。
ただ残念なことにそれから数年は運営が上手くいかず、喫茶店もお土産屋も開店 休業状態が続きました。そのうちアルゼンチンの大不況、インフレでガ ソリン 代が値上がりし、とてもエプジェンまで行けなくなってしまいました。そしてい つしか私達の食器の事も忘れていました。
それは全く偶然が重なりました。この夏にブエノスアイレスの夫の友人の陶芸家 の生徒さんが、バリローチェ近くの町で開催された焼き物合宿に参加 し、是非 私達の所へも行って来なさいと先生から薦められ、私達も特に予定がなかったの で、彼女を数日受け入れる事になったのです。
すっかりパタゴニアが気に入った彼女は、帰宅日を一日延ばし、私にエプジェン 湖を是非案内してほしいと頼んできました。
近そうで遠いエプジェンです。折角の機会ですから案内する事にしました。そし て何年かぶりに湖畔の文化センターに足を踏み入れました。
以前のひなびた雰囲気は無くなり、遊歩道も整備され観光地化しているのには驚 きました。文化センターも地元の人たちの芸術作品が展示販売されてお り、喫 茶店も手作りサンドイッチやジュース、ケーキがありすっかり様変わりしていま した。
お昼だったので、そこで軽い食事をする事にし、テーブルについて注文をしてい ると、店員の女の子が私をじっと見つめています。そして一緒に居た女 性が 「TOKIKO、湖が奇麗ねえ・・・」と私の名を呼ぶと
「あっ。」と言って、私に「あなたの食器、時々ここで使っていますよ。」と話 しかけてきました。
スペイン語の下手な私は、何の事か分からなかったのですが、同席の女性が「凄 い。どんな食器があるの?」と店員の女の子と話し始め、やっと私は数 年前の 事を思い出したのです。
「ちょっと待ってて」と女の子が奥に引っ込み、お盆にコーヒーカップや受皿を 数点乗せて戻ってきました。
最初に出た言葉が「はずかしい〜」でした。
まだまだ焼きも甘く、形も不ぞろいな、でも間違いなく私達の作品がそこにあり ました。
なんで恥ずかしいなんて言葉が出ちゃったのでしょう。久しぶりに会った作品た ちに「嬉しい。」って言ってあげるべきでした。
最近では他の陶芸家さんの揃ったカップやお皿を使っているようですが、それで もここで、大切にされているのが伝わってきました。
嬉しかったです。
私の作品だけど、私とは別の一つの個性を持っているような気がしました。
私の作ったものがお店で使ってもらえるなんて焼き物王国日本じゃ絶対にあり得 ない事です。

でも久しぶりに会った作品たちに、思わず「恥ずかしい」なんて言葉が出ちゃう ようじゃ、全然だめです。「良いでしょ。使いやすいでしょ。奇麗で しょ。」 と自慢する位にならなくては・・・。
下手でも何でも、私らしさく心をこめて作品と向かい合って行こうと改めて思い ました。
エプジェン以外でも、きっと誰かが何処かで、私の作品を使ってくれたり、飾っ ていてくれたりするんだろうな、と考えると、やっぱり私は此処へ来て 良かっ たなあと素直に思えます。