時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「のうじょう真人 交通事情」

私達が住んでいるのは、エルボルソン市マジンアオガード地区という所です。

アンデス山脈の麓の村と言えば「のどかで静かで自然の多い美しい村」と殆どの人が想像するようですが、実際はラテン国らしくがちゃがちゃとしていてうるさく、緑の濃い静かな日本の田舎とは雰囲気が全く違います。それでもマジン地区にはアスファルトの道は無く、自動販売機などもありません。公道に馬や牛が歩いていたり、鶏や羊が悠々と道路を横切ったりします。私にはゴミが多いのと森林伐採が気になりますが、都会から来た方には驚くような田舎に見えるようです。

さて我が家ですが、このマジン地区の真ん中辺りにあります。

エルボルソンからバリローチェ方面に国道40号線を5kmほど走るとマジン地区への入り口が出てきます。村を一周するように公道が走っています。我が家は右回りでも左回りでも同じくらいの距離(約10km)で辿り着くことが出来ます。但し道はかなり凸凹なので、車高の低い車で来たらとんでも無い目に遭います。

「味噌や豆腐の作り方を教えて」とか「穴窯での窯焚きを見たい」「自然農法について知りたい」と言ってくださる方はいますが、地図を描いて説明しても、間違えずに辿り着けた人は居ません。慣れてしまうと「どこでどうやって間違えるのか?」と不思議に思うのですが、道路標識が有るわけでもなく、これは獣道ではないか???と不安になるような道を通ったりするので、仕方ないかもしれません。

道路沿いに家はかなりありますが、「日本人は何処に住んでいる?」と訊ねても、詳しい位置を知っている人はあまり居ません。また都会ほどでは有りませんが、治安も以前に比べると悪化しており、知らない人が訊ねて来たら家から出てこない場合もあります。おまけに我が家には電話がなく、携帯も電波が届かないので、迷っても連絡する術が無いのです。

「なんでこんな不便な所に住んでいるの!」

「公道くらいアスファルトになれば良いのにね。」

とおっしゃる方も多くいますが、私達はこの不便さと土道が気に入っているのです。それどころか、人口増加で車や家が増え林の減った事が悲しく思えます。

こんな事情ですので、「聞きながら行けば、どうにかのうじょう真人に辿り着けるだろう。」と思われるのは大間違いです。まして車などの足が無い場合は不可能と言っても良いでしょう。

以前はエルボルソンに住む日本人の方が「わざわざ訊ねてきたのだから」と、車で30分以上もかかる我が家まで送ってくれていましたが、それがどんなに大変な事か身をもって分かるので、連絡なしに突然訊ねて来る人はお断りする事にしました。

雪で車が走れない時やガソリン代の高騰などで、夫は時々町まで歩いて行きます。近道をして彼の足で3時間、私の足で4時間位なので、決して無理な距離ではありません。

エルボルソン行きのバスも一日4回ほど周遊道路を走っていますが、バスを下りてから我が家までは5km以上歩くことになるので、近道をして歩いた方がずっと良いです。

夏は乾いて車が走るとモウモウと土煙が舞い上がり、雨が降るとぬかるんでぐちゃぐちゃになる道です。「アスファルトに!」という運動が盛んになってきています。でも私達は反対です。土を殺したアスファルトの道は人間も含めて動物達の足には固すぎます。車優先になり、交通事故も増えるでしょう。大型トラックが走れるようになると、森林伐採ももっともっと進むでしょう。


今のままの不便さを楽しめる人だけが、ここに住んだら良いのになあ・・・と、もの凄く利己的な事を考えています。少なくとも、我が家へ来る方はそうであって欲しいと思っています。

勿論、事前に私達と連絡が取れた方は、エルボルソンまたはバリローチェまで車でお迎えに参りますのでご心配は無用です。