時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「花いっぱい、夢いっぱい、パタゴニアに春が来た」

暖冬だったせいか今年は春が早いと感じていましたが、ずっと気温が上がらず結 局寒い春となっていました。
ところが10月にはいってから、日中の気温がぐんぐん上がり一斉に果樹の花が咲 き始めました。
今満開なのは、サクランボ、ボケ、プラム、パタゴニアの自生種カラファテで す。一昨年、昨年と2年連続で我が家は果実が不作でした。今年こそは豊 作に なって欲しいという思いが強くあります。そしてその気持ちに答えるように、サ クランボもプラムも見事なほど花が咲いています。
日中木の下へ立つと、蜜や花粉を集める蜜蜂たちの羽音が聞こえ、楽しい気分に させてもらえます。世界的な問題の様ですが、ここ数年パタゴニアでも 蜜蜂の 数はがっくりと減りました。分封した蜜蜂の群れが飛んで行く事も、それを捕ま えようと、鏡を持って追って行く事ももうありません。巣別れし て飛び出して しまった蜜蜂の分封は、鏡などのキラキラしたものを反射させると、面白いくら いその輝きについてきます。以前はそうして群れを下に下 に誘導させ捕まえま した。蜜蜂の分封はもう何年も見ていませんが、それでもどこからかやって来て くれる蜜蜂たちが居る事に心が和みます。
白や黄色の花が多い中で、赤いボケの花は一際目立ちます。ボケはこちらでは 「日本カリン」などと呼ばれています。
蜂鳥用の蜂蜜水を入れた容器も、花が咲き始めた10月からは空にしました。窓か ら蜂鳥たちのホバーリングが見られなくなったのは寂しいですが、彼 らも花が 咲き始めると、人工の蜂蜜水には寄ってこなくなりました。そしてかわりに満開 のボケの花の中を可愛い羽音をさせながら飛び回って蜜を吸っ ています。自然 に勝るご馳走は無いと言う事でしょう。
たんぽぽも花が咲き、大地を緑と黄色に彩ってくれています。私もみそ汁の具に 困る事もなくなりました。
水仙はそろそろ終わろうとしていますが、ルピナスジャーマンアイリスが日に 日に大きくなっています。野生ランも間もなく花が咲き始めるでしょ う。この 花の甘い香りの漂う林を歩くが大好きです。そしてこの香りを楽しみながら一緒 に歩きたい日本の友人、家族の顔が浮かびます。
日本の田舎の豊かな春の風景を見慣れている人には、パタゴニアはなんて寂しい 貧弱な春か、と感じる様です。でも私は比べる必要なんてないと思いま す。日 本には日本の美しさが、パタゴニアにはパタゴニアの美しさがあるのです。
私にとっては何物にも代えがたい美しいパタゴニアの春。
花いっぱい、そして秋にたわわに実った果実を収穫してジャムやジュースを作る 夢いっぱい。
私の周りで息づいている命の輝き。
花も草も鳥も昆虫も、私を包む優しい存在に幸せをいっぱい分けてもらっています。