時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアの桜」

暦の上ではアルゼンチンはまだ冬。けれどもボケの花のつぼみも日に日に膨らんで、タンポポ水仙も葉を伸ばし大地が緑に色づいていくのを見ると、 春はもう私の隣に来ているんだなあと感じます。
日本で春と言えば、何と言っても「桜」です。
もし日本に行く機会があれば、味覚の秋も捨てがたいですが、やはり桜の季節に行きたいと思います。
若い頃からお祭り騒ぎや人が多く集まるにぎやかな場所が苦手で、日本に住んでいながら桜の下で花見の宴会をした経験がありません。
私の思い出す桜は、朝早く犬の散歩で通った神社の桜並木、小中学校の9年間の桜写生大会、田んぼの中に一本だけ残っていた桜の大木。静かに一人で 見ていた桜が多いです。
満開の桜が風に舞い落ちる中を歩くのが好きでした。
日本の桜の季節は、新学期が始まりまだ親しい友人も出来ず、新しい担任にもなじめない時。日本の桜を思うとあの時の不安や寂しさ切なさも思い出されます。でもそれは今はもう感じる事もない透明な素直な気持ちの様な気がします。
パタゴニアにも桜はあります。本当は何と言う名前なのか知りませんし、桜なのかどうかも分かりません。でも私の中ではそれはしっかりと「パタゴニアの桜」なのです。
月曜日と木曜日の午前中は日本語教室と買出し、豆腐の卸しで町に行きます。今の季節、町に下りる度景色が変わって春に向かって進んでいるのを感じます。
それはパタゴニアの桜の木を見ることで特に感じます。
何となく桜の木が太ったな。
つぼみが起きだして膨らんでる。
木全体が桜色に変わってきた。
あっ、一番乗りで開こうとしてる花がある。
毎日見ていないので、その変化に驚きと喜びを感じます。今年は例年より開花が一週間ほど遅れましたが、今町はピンクに染まっています。日本の桜よ り派手でたくましい感じがするのはアルゼンチンらしいです。
ただこちらではこの桜を特に愛でると言う事はありません。宴会も花見もカラオケも桜祭りもありません。
やはり「桜」は日本の花なんでしょう。そして桜を見て特別な感情を持つ私もやはり日本人なんだなあと感じます。
我が家とエルボルソンの町は17kmほど離れています。そして標高が200m違います。車で30分ほどの距離ですが、この標高の差は大きいです。 ですからこの桜、我が家の近所にはありません。
町に行った時にだけ楽しむ私の春です。

桜はありませんが、そろそろ我が家でもプラムの花のつぼみが膨らみ始めるでしょう。これから花の美しい季節になります。そして畑や薪仕事が忙し くなります。
多くの人に支えられ、ここで暮らしている事を大切にしていきたいと思います。