時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアの蜂鳥たち」

我が家に蜂鳥が居るのは知っていました。数年前の秋、薪小屋で冷たくなっている蜂鳥も見つけました。
亡くなったばかりだったのか、まだ柔らかく、深緑色でつやつや輝いていた背中がとても奇麗でした。長いくちばしから舌が出ていたので、お腹がすい ていたのかなあ?と可哀想でした。
春にもホバリングでかりんの花の蜜を吸っている姿を見つけ、パタゴニアにも生息していたんだと嬉しくてドキドキしました。でも殆ど見かけることは ありませんでした。
昨年の冬、友人の家で蜂蜜水を吸いに来ている蜂鳥を見ました。凄い早さで飛び回り、ホバリングで蜜を吸う姿に、その時親しい人の嘘に落ち込んでい た私は心が温かく元気になりました。それで早速その蜂鳥用の蜂蜜水入れを町のペットショップで買ってきて、蜂鳥が一度玄関前の地梨の花の蜜を吸っ ていたので、近くの軒下につるしました。
でも結局何週間、何カ月たっても姿を見かける事も無く春になってしまいました。でも蜂蜜入れは空のまま未練がましく軒下につるしておきました。
それから一年が廻ろうとしていた4月の初め。その空の蜂蜜入れの周りを飛んでいる一羽の蜂鳥を見つけ驚きました。すぐに飛び去ってしまいました が、私は急いでその蜂蜜水入れを洗い、蜂蜜が無かったので砂糖水を入れ、また来てくれる事を願って待ちました。
期待していましたが3日経っても気配も無く、諦めかけていた時、ばばばば・・という羽音が聞こえ一羽の蜂鳥がやってきたのです。
「吸って!吸って!」
はらはらしながら隠れて見守っていました。するとその蜂鳥、見事なホバリングで砂糖水を吸ってくれたのです。嬉しくてドキドキしました。
それからは一日に何度もやって来るようになりました。「チチチ」と高い声でさえずっています。砂糖水ではミネラルが足りないと思い、自然食のお店 で地元の蜂蜜も買ってきました。
蜂鳥は結構早起きで薄明るくなるともうやって来ます。そして夕暮も、うす暗くなるまでいるので、鳥目じゃあないのかなあ?きちんと寝床まで帰れる のかなあと心配になってしまいます。

最初の数日は一羽でしたが、今では4〜5羽がやって来るようになりました。みんなで仲良く吸うのかと思ったけれど、縄張り意識が強いのか住人の私に似たのか、最初の 一羽が独占して、他の子が来ると追い払ってしまいます。時にはけんかなのかもつれ合って下に落ちていきます。
「おいおい、我が家には狩人猫の福ちゃんが居るんだから、あんまり地面に近づかないでよ。」と心配になります。
本当は野生の動物や鳥を餌付けするのは良くないと分かっていますが、この時期に一体何を食べているんだろう?と不思議で、数年前舌を出したまま亡 くなっていた蜂鳥の姿が脳裏に浮かび、せめて花の時期まで蜂蜜水を補充し続けようと思っています。それにあんまり喧嘩するので、もうひとつ買って 来て別の軒下につるしました。
二つでも足りませんが、これ以上増やすのもどうかな?としばらくは様子を見る事にしました。
毎朝、蜂鳥のチチチというさえずりで一日がはじまり、日中はボババババという可愛いけれど豪快な羽音を楽しんでいます。

以前は我が家には野生のフクロウも野鴨もいて子育てをしていました。目の前で母鴨の擬態をみて感動で心が震えました。でも環境変化、人口増加、周りの林の消滅でか、もう姿は見ません。アカゲラもシギもサギもインコもめっきり数が減りました。ですから蜂鳥の姿を見るたび、この子たちが安心して暮ら せる農場を守っていきたいと感じます。
もう一度野鴨が、フクロウが子育てを出来る場所にしたいと果樹の種を播き続けていきます。