時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「秋生まれの私が、春に年を取る感慨にふける」

個人的な事ですが、今月初めになんと52歳になりました。
自分の年齢を文字にして、その重さに「ぎょっ!」としています。
老眼、薄毛、しみしわなどの老化現象はあるのに、子供が居ないのでその成長で 年を実感する事も無く、人間的には全然熟成されていません。恐ろしい事です。
子供のころから一年で秋が一番好きでした。
日本の9月はまだまだ残暑厳しい頃ですが、秋の始まりというイメージがあり、その事がとても気に入っていました。
それがアルゼンチンへ来てから、私の誕生日は春を迎える、新緑に季節に変わりました。寒いパタゴニアでも、ボケの花が咲き、水仙のつぼみもふくらみ、温かい日には満開の猫柳に蜜蜂が花粉を集めにやってきます。
今年は暖冬で、厳しい寒さの無いまま春を迎えようとしています。花の開花も一カ月近く早いです。
我が家でも、昨年より3週間早くエンドウ、空豆、ニンジンを畑の一部に播きました。
私が勝手に「春の使者」と呼んでいるアカゲラもやって来ました。年々激減しており、今年もその姿を見せてくれた時は本当にホッとしました。
また天気の良い日には、一番大切な仕事、主燃料の薪準備にも精を出します。枯れ木は農場に沢山あるのですが、それを切り倒し、運び、斧で割る作業 があり ます。また種から増えた松も、どんどん切っていかなければ成長が早く、個人では切れないほどの大木になってしまいます。
若い頃には力任せにばりばりこなしていたこれらの仕事も、最近では無理せずゆっくりやるようになりました。
でももう嫌だ、隠居したい、楽したいとは思いません。それよりも、こうしてのこぎりを持って林に入り樵作業が出来る環境と自分に感謝しています。 木と対話し、犬たちと共に過ごす心落ち着く時間です。

ただ残念なことに、ここはもう以前の様な田舎の静かな場所ではありません。。
避暑地として開発が進み、人口も騒音もゴミも増え、自然林は減り、もともと数少なかった野生動物も昆虫もほとんど居なくなりました。
此処へ来た事のない人たちは、山奥とか、へき地とか想像しているようですが、 私には不便でうるさい住宅地です。もっと自然豊かな静かでのんびりした場所へ行きたいと思う反面、此処だからこそ生活のすべがあり、生きられるんだとも 思います。
それならば、20年生きてきたこの場所を、私の居る小さな場所だけでも大切に 守り育んでいかなければと思います。
春になって大地が少しずつ緑に変わり、木々の芽が膨らみ、草花のつぼみも大きくなって、私も年を重ね、こうして自然と共に素直に進んで行けば良いんだな あと感慨にふけっています。

写真は何を思ったのか、電柱にしばらく止っていたアカゲラと、奇麗な模様で楽しませてくれた薪です。