時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「雪が降る。いろんな思いが交差する。」

今年は暖冬です。スキー場にも雪がありません。
冬の観光事業として、スキー場開発に力を注いでいるエルボルソン市には申し訳ないのですが、私は半分ほっとしています。
観光業で儲けようとすると、どうしても自然破壊につながります。
自然を売り物にしているはずなのに、遊歩道の為木は切られるし、川を四輪駆動車が横切るし、ゴミは増えます。
特にスキー場開発は最悪だと思います。
実際私の大好きだった山が、スキー場開発でめちゃめちゃになりつつあります。厳しいパタゴニアの自然の中で、僅かに生き残っていた高山植物たちも、その 姿を消しています。
でも推進派の勢力の前には、どうする事も出来ないのが事実です。ですから物凄く消極的な私は、雪不足が続きこれ以上スキー場開発が進まない事を 願ってい るのです。
でも人間と言うのは利己的なもの。
暖冬の雪不足を歓迎してはいないのです。
冬、特にパタゴニアの冬は寒くて当たり前。温かく過ごしやすいなんて不気味です。特にアンデス山脈に雪が少ないと、雪解け水を水源にしている私達 は夏の 水不足が深刻な問題になります。
山の無い、雪も滅多に降らない土地で育った私は雪景色がとても好きです。ここに暮らし始めた頃は、雪が降るたび犬たちと走り回っていました。雪を 踏みし める”きゅっきゅっ”という音も感触も大好きでした。
年とって平衡感覚が無くなってしまった今は転ぶのが怖く、雪が降っても家の中から眺めるだけになってしまいました。
その代わり雪の感触を楽しむことから、雪の感覚を楽しむようになりました。
先日珍しく雪が降りました。雪が降っていた数時間、私は何もせず窓の外を眺めて過ごしました。
雪が降らない事を喜んだり、降る雪に心が癒されたり。雪に一喜一憂。なんとまあ、私は自分勝手な人間なんでしょう。
これからどんな風にこの町や私の暮らしが変わって行くのか分かりませんが、支えてくれた多くの人たちや自然に感謝して、こうして降る雪を静かに眺 めてい られる日々を大切にしていきたいと思います。