時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「炭の威力と火鉢の偉大さ」

テレビの時代劇などで、寒い冬に火鉢に手をかざしている場面を見て「あんなんで暖かいのかなあ?寒そうだな。」と思っていました。私の年齢は石油 ストーブ が主で、流石に火鉢はもう身近な存在では無くなっていました。

パタゴニアに暮らし始めてから暖房は薪になりました。引っ越したのが秋。家には料理用薪ストーブが一つだけありました。パタゴニアの冬の厳しさ も、薪の消費量も知らなかったので、残っていた2立方メートル程度の薪を見て「十分ある」と思いこんで安心ましたが、冬の到来とともに、その甘さ を身を持って知らされました。どんなに節約しても15立方メートルは必要だったのです。慌てて近所のパイサーノ(何代にもわたってここに住んでいる移民家族の総称)さんから薪を購入しましたが・・・・やってくれました・・・届いたのはすぐに燃えてしまう松の薪で、しかも半分以上が生だった のです。生の薪は煙は出るし燃えても温度が上がらず、最初の冬は本当に煙くて寒い思いをしました。
それからは乾いた薪を自分たちでたっぷり用意する事が、夏の重要な仕事になりました。暖房用ストーブもドラム缶で作りました。

焼き物を始めて、家の西にある小さな部屋を陶芸工房にしました。そこは電気もなく、冬の間は窓ガラスが凍りつく冷蔵庫の様な部屋でしたので、知人 から中古の小さな鋳物の薪ストーブを安く買い、ずっとそれを使っていました。
ところが数年前からストーブのあちこちから煙が漏れ始めたのです。流石に寿命の様でしたが、まだ何とかなるでしょうと、だましだまし使っていまし た。
けれども今冬、もう部屋に居られないという程煙が漏れるようになってしまいました。これでは作陶どころではありません。養蜂をやっていた頃使っていた石油ストーブを引っ張り出しこの冬を乗り切ろうとしましたが、なんと!エルボルソンではもう灯油がどこにも売っていないのです。新しいストー ブを買うゆとりなんてないし、煉瓦や粘土でストーブを作るには寒くて材料が凍ってしまい出来ません。
火の気のない部屋は寒くてとても居られません。でも外仕事の出来ない冬こそ作陶に集中できるのです。その時、テレビで見た火鉢が脳裏に浮かびまし た。火鉢は無いけれど、以前作った素焼きの土鍋があります。不細工で重くって、とても実用的でないと窯場に転がしていたのを持ってきて灰を入れ、 その上で消し炭を燃やしてみました。
「すごい!」
暖かいのです。もちろんストーブの様な威力はありません。でも直接燃える炭を見ていると、それだけで暖かい気がしてくるから不思議です。燃える炭のパチパチという微かな音と香り。気持ちが和んできます。

本格的な炭を作る技術が無く(一度窯で挑戦したら、炭にならず、見事に燃え尽きてしまいました・・・)毎朝薪ストーブから真っ赤になった薪を取り 出し、素焼きのつぼに入れ蓋をして消し炭を作ってそれを使っています。

電気やガスで床暖房で家中暖かい町の友人の家。快適で清潔な暮らしだと思いますが、それが当たり前になってしまう事の怖さを感じます。木を切って 薪にして暖を取るから、木を育てる大切さが身に沁みます。そしてその木が育つ環境を守りたいと思います。自分で切り倒し割る作業を通して、一本の 薪の貴重さと暖かさを感じます。不便でも、自然に感謝出来る暮らしを有難いと思います。

今冬の目標。火鉢作り。
でも暖かくなったら、農場に一杯ある木端を燃やせる薪ストーブを粘土で作ってみたいな、とも思っています。
ねえ、誰が一緒にストーブ作りしませんか?肉体労働をいとわない人に限りますが、宿と食事提供しますよ!

さて、次回は新しい家に作った (おそらく)パタゴニア初の囲炉裏のご報告をします。