時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「想定外」

木曜日、生のカシューナッツを頬ぼっていると、突然ギリリと嫌な感じがしました。
「ああ、仕舞った!!」そう思ったけれど後の祭り。また歯の詰め物が食べ物に
くっ付いて取れてしまったのです。
数年に一回ある突発事故です。前回はうっかりかぶせ物を飲み込んでしまいましたが、今回は用心深くうがいをし、冠は無事回収する事が出来ました。
さて・・・この治療に歯医者に行かなければいけません。ところが、ここエルボルソンでは歯科治療にはとても苦労します。公立病院の歯科は無料なの が魅力ですが、緊急予約でさえ一カ月後。運よく予約が取れても「器械が壊れた」「麻酔が無い」「スト」などで、きちんと治療してもらえる保証はあ りません。
開業医は10軒以上ありますが、こんな言い方とっても失礼ですが技術、設備とも「ピンからキリまで」。行っただけ時間とお金の無駄で余計に悪く なったという事もあります。
設備もまあまあ最新で信頼出来る歯科医は当然のことながら何時も満員。予約は2カ月後が普通です。貧乏人の私には掛かり付けの懇意の歯科医はいま せん。
殆どの人がそうですから、緊急の場合は根気よく電話をしてキャンセルがあった時に駆けつけるしかありません。でも我が家には電話はないの で、直接歯科院巡りをして一番早い予約が取れる歯医者を探すしか方法が無いのです。
しかも1月はアルゼンチンの夏季休暇。いったい何軒の歯科院が開いているやら・・・。穴空きの歯のまま数日、週週間、数か月過ごすのか・・・とげんなりしました。
そして金曜日。町に行く事も無く、歯科院巡りをする事も無く私の歯にはきちんと冠がかぶさり、問題なく咀嚼していたのです。
こんな信じられないような幸運があるなんて、今年は何て幸先がいいのかと天にも昇る気持ちでいます。

何があったかと言いますと、木曜日の夕方、ブエノス在住の移住の大先輩が「別宅が完成した」という誤報を元に突然訪問して下さっ たのです。その時先輩と同じ船で移住されたブラジルからのご夫婦も一緒でした。「迷惑だから」とエルボルソンで宿泊しようとされましたが、私 の寝室を急遽客室に変え、不便を承知で泊まって頂きました。そして夜中の3時までの楽しい団欒。その時、ブラジルの先輩が歯科医だと知ったので す。農業移住で来られ7年後にブラジルで歯科大学に入り開業。20年住んでいてもろくなスペイン語も話せない私は尊敬を通りこして神様を拝むよう な気持さえしました。
そこで私が「今朝歯の詰め物が取れちゃったんです。」と軽い気持ちで言ったら、「じゃあ応急処置ですが明日冠をかぶせてあげますよ」と言って下 さったのです。なんと先生、一カ月以上の奥様との休暇旅行に、治療道具一式を持って来ていたのです。
治療出来た事も嬉しかったですが、大きな歯科医院の院長先生自らに自宅で治療して頂いた事がとてつもない贅沢な事に思えました。
先輩が来られた日の朝、泊まっていた旅行者カップルが帰り客間を掃除、シーツを変えたばかりでした。もし一日ずれていたら泊まって頂く事が出来ず に、親しくお話する事も、こんな幸運に恵まれる事もなかったでしょう。
そして今抱えている問題だって、八方ふさがりで解決が見つけられないと思い込んでいるけれど、こんな風に想定外の思いもしない道が開けて行くものかもしれないと感じました。
大口を開けてかぶさった冠を見ながら、今年は嬉しい出来事が一杯あるような予感がしてウキウキしました。
還暦を記念してはじめられたと言う先生の素敵なブログ ヴィトリアの青空です。
http://vitoria.cocolog-nifty.com/blog/

さて新居の方ですが、少しずつ前進しています。水パイプの穴掘りも一段落。今は玄関部のたたきに挑戦中です。囲炉裏も形は出来上がりました。床も 張り終わりました。ぱっと見はまだまだ倉庫ですが、内装は徐々に日本的になってきています。次回は囲炉裏とたたき作りについてご報告します。

パタゴニアは年明けから急に暑くなりました。日差しが強く乾燥しています。サングラス、帽子は必需品です。水分補給もお忘れなく。