時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「流れ星」

前回は露天ぶろから見えるサクランボの木の写真をアップしましたが、あれから二週間も経っていないのに、もう満開の時期は過ぎて、今は風と共に花 弁が舞い落ちています。
パタゴニアの春は少しも落ち着いていません。快晴の日は日中汗ばむ陽気ですが、早朝はぐっと気温が下がりマイナスになって霜が降りる日も珍しくあ りません。もう必要ないと冬もののセーターを仕舞いこんだ翌日は、ストーブを一日中焚いていなければ寒くて居られないと言う事もあります。
それでも春は確実にやってきています。
私の春は、アンデスから吹く風の柔らかさ、タンポポや野生ラン、ルピナスなど野の花の成長、果樹の開花、蜜蜂の羽音、煙のように流れる木の花粉、 野鳥の巣つくりなどから感じます。そして冬の間は凍ってしまうので外に干せなかった洗濯物が、外でお日様の香りを一杯含んで乾かせる幸せや、秋に 植え付けたニンニクの芽がぐんぐん伸びていく嬉しさ、畑仕事の時、土の香りやぬくもりを感じる喜び、食材のタンポポを 摘め る有難さで春を実感します。
そして今年はもう一つ春の喜びと実感が増えました。それは野宿しながら星空を眺める夜です。
私は日本の幼稚園児並みの早寝です(アルゼンチンの子は夜10時に夕飯なんてざらですから問題外です)。朝はまだ暗いうちから起き出しますが、豆 腐作りや洗濯などでバタバタしていて、ゆっくり星空を眺めるゆとりはありません。ですから考えてみるともう何年も流れ星を見た事がありませんでし た。
一カ月ほど前、真夜中の2時に目が覚め、どうしても眠れない事がありました。
悶々とベットの中にいましたが、何故か急にふっと、外へ出てみようと思ったのです。毛布にくるまって外へ出て、草の上に座って夜空を見た時、すーっと一つ大きな星が流れました。何年かぶりに見る流れ星でした。
「なんて奇麗なんだろう。」
体の真ん中からぽっと温かい楽しい気持ちが湧きあがりました。とてもわくわくしました。
その夜は30分程の間に5つの流れ星を見る事が出来ました。
星は毎晩こんなに流れていたのに、ずっとずっと気付かないでいて、なんだかすごくもったいない事をした気がしました。
体はすっかり冷えてしまったけれど、心はとても温かでした。
それから私は天気の良い日の夜、時々寝袋を持ち出して野宿しながら星空を眺めるようになりました。
不思議な事に、最初の夜ほど流れ星は見られません。何時間も居て2つだけだった夜もあります。それでも必ず星は流れてくれます。
星空が美しい夜は明け方マイナスに気温が下がるので、耐えきれず家の中に避難してしまいますが、風邪を引く事もありません。
寝袋にくるまっていると、三匹の犬たちが私の周りではしゃいだり、ぴったり寄り添って丸くなっていたりしてそれも幸せを感じる時間です。
気が向いた時、気が向いた場所で寝転がり星を眺められる幸せ。どこへ行っても必ずついて来てくれる犬たち。風に吹かれごうごうと鳴る木々。柔らかく受け止めてくれる大地。悩む事なんて何もない、自然の流れに任せていれば良いんだと素直に思えます。
周りがどんなに変わろうとも、こういう幸せを感じられる自分を大切にしていこうと思いました。
今回も露天風呂から眺めるサクランボの木の写真です。これから一週間ほどは、花弁と混浴です。
水曜日、大安吉日、いよいよ家つくりを始めます。