時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「メッセージ」

去年の春、玄関横の壁に接して生えている植木の枝に、野鳥が巣をつくりました。
小さなくちばしに材料を加え、何度も行き来して、あっという間に可愛い巣をつくり、卵を生み温め始め、時々オスが餌を加えて戻ってき て、巣の中のメスに口移しで与えていました。生まれて初めて自分の目で見る野鳥の子育ては感動的でした。
私は毎日その姿を家の中から窓越しに眺めるのが楽しみでした。
可愛い雛が巣立つ日を楽しみに待っていましたが、ある朝、突然小鳥たちの姿がきえてしまいました。どうやらネズミに卵をやられてしまったようで す。
巣はそのままずっと残して、もう一度やって来てくれるのを待ち続けました。
いつしか夏になり、季節は移りかわり、気がつくとあれから一年が過ぎていました。
そして再び春になり、野鳥のさえずりも聞かれるようになった頃、一羽の小鳥が巣の掛かっている植木によくやって来るようになりました。毎朝早くか ら騒がしく さえずり、落ち着きなく動き回ります。
「早く奥さんを見つけてここで子育てしてね。」
窓越しにその鳥に呼び掛けましたが一向に巣の補修も新しい巣つくりする様子もありません。
しかもいつも一羽。焦らず待とうと思っていた時、その小鳥が家の周りをまわり、窓から家の中を覗くようになりました。そして窓ガラスをコンコン叩 くようになったのです。
時々はガラスが割れてしまうのではないかと思う位強くたたきます。それが数日朝から夕方まで続きました。
最初は「可愛いなあ」と思っていましたが、段々、この子は何が言いたいんだろう?何を伝えようとしているんだろう?と気になり始めました。
ガラスに映った自分の姿をメスと思ってアピールしているのかな?
それともライバルと感じて威嚇しているんだろうか?
今年はネズミにやられないように守ってって伝えているのかな?
家に入りたいんだろうか?
一日中響くガラスをたたく音。小鳥からのメッセージ。

「ごめんね。私には分からないよ・・・。」

そして・・・一週間が過ぎた頃、その子の姿はぷっつり消えてしまいました。
気が抜けてしまったような、寂しいような、少しほっとしたような複雑な気持ちが残りました。

あの子がどうしているか、知るすべはありません。だから不吉な予想はせず、きっと可愛い奥さんを見つけて、安全な場所で仲良く子育てをしていると 思う事にします。

一生懸命窓ガラスをたたいて呼び掛けていた小鳥のメッセージ。私にはついに理解する事ができませんでした。
毎日見ていた子なのに、林で会っても私には気付く事はできないでしょう。
もっと自然を見つめなきゃあ、自然のメッセージをきちんと受け取らなきゃあ。
大いに反省した春でした。