時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「露天風呂から」

我が家には露天風呂があります。移住して2年はずっとシャワーの生活でしたが、農場にはストーブでは燃やしにくい小枝がたくさんあり、ドラム缶が手に入った時、簡単なドラム缶風呂を作って沸かして入ってみました。
季節は秋の始り。ストーブを点ける程じゃないけど、何となく肌寒いという日でした。
2年ぶりに体がお湯にすっぽりと浸かった瞬間は忘れられません。
なんというか、気持ちよさと暖かさで体がとけて行く・・・そんな感じでした。
ドラム缶は狭くて手足は伸ばせませんでしたし、生木の枝は煙が出て煙かったですが、それでも、お湯につかると言うのはこんなにも幸せなことだったんだとしみじみ思いました。
お風呂から出た後も、体中が火照ってじんじんして、芯から温まるという言葉の意味も実感しました。

それからは事情が許す限り風呂を沸かし入っていました。ところが下から直接火を燃やすドラム缶は一年くらいで底に穴が開いて使えなくなってしまい ます。
なんとかドラム缶を工面して露天ぶろは続けていましたが、お隣の観光都市バリローチェのホテルが建て替える時に、鋳物のバスタブが廃材とし て出される事を知りました。鋳物は直接火にかけられますし丈夫です。これを利用しない手はありません。
知り合いに頼んで安く手に入れる事が出来、本格的な露天風呂を作ってもらいました。
細長いバスタブではお湯がすぐに冷めてしまいますが、手足を湯の中で伸ばせ、出入りがドラム缶よりずっと楽な利点がありますし掃除もしやすいです。
本当は脱衣場や雨の日でもはいれる屋根を作りたいのですが、なかなか実現出来ずにいます。
火事の心配から旱魃が続いた日や風の強い日と、雨雪の日には沸かす事が出来ませんので、毎日露天風呂を楽しむと言う訳にはいかないのが残念です。ま た一人ではもし入浴中に来客でもあったら・・・と落ち着いて入っていられない欠点もあります。

湯船にはミカンの皮やラベンダーの花などを入れ香りを楽しんでいます。正しく露天なので、ゴミや落ち葉が入ってしまいますが、全然気にしません。
私は早寝早起きでまだ明るいうちから風呂に入ってしまうので、露天ぶろにつかりながら星空を見上げる贅沢はできませんが、代わりにサクランボの木を見ながら季節季節を楽しんでいます。冬は葉を落として寒々としていましたが、今は春を感じて日に日に木全体が膨らんで来ているように感じます。
もう少しすると花見湯を楽しめますし、その後の花が散る様子や、サクランボが大きくなって色づいていく様子などなかなか風情があります。夏は真っ 赤に熟したつやつやの実を小鳥がくわえて運んでゆく姿も楽しめます。毎年毎年木は大きくなっていきます。その成長も楽しみの一つです。

そりゃあ日本の温泉などとは比べものになりませんが、私はここで暮らしているので、日本と比べたりせず、今ここにある幸せを大切にしていきたいと思います。写真はお湯につかった時に見上げるサクランボの木の風景です。花の季節にもまたご報告します。