時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「思い込み」

中学校の音楽の時間の思い出。 テストで一人ずつみんなの前で歌わなければなりませんでした。気の小さい私は緊張しきっていました。そして歌い出したら・・・先生が苦笑い しなが らピアノで伴奏をはじめ、教室中が大爆笑。その笑いは私の歌が終わるまで止みませんでした。最初は理由が分からなかったのですが「音痴〜」 の声で納得。 もともと根暗でいじけ症の私は、その日は恥ずかしさと悔しさで帰るまで泣き続 けていました。それ以来「音楽大嫌い」「私に音程もリズ ム感もない」。当然カラオケなんて近寄りたくもないと言う人生を送ってきました。
確かに私は特別な音痴です。それははっきりきっぱり認めます。青年海外協力隊時代、同僚の女の子に仕方なく日本の歌を教えたら、私の音痴そのままをコピーしていて愕然としたこともあります。
こちらで焼き物仲間にオカリナ作りを教えてもらった時も、大嫌いな音楽の楽器だと思うと作っていて全然楽しくなくすぐに止めてしまいました。
ところが昨年末、エルボルソンでインド音楽をやっている人から、焼き物で「タブラ」という太鼓のような楽器を作って欲しいと頼まれました。いろんな陶芸家にお願いしたけれど断られたという話でした。最初は当然断るつもりでしたが、誰も作りたがらない結構手間暇かかる難しい物を私が作るというのは面白い挑戦かも・・・とやってみることにしました。言い訳になりますが、市販の粘土ならともかく、粘性が乏しく比重が重く、耐火温度の低い パタゴニアの粘土では大物作りは非常に難しいです。張る山羊の皮の大きさが決まっているので、粘土の収縮率も計算しなければいけません。焼く前に何個も作っては壊し(壊れが正しいかも)を繰り返し、やっと完成しました。
そして先日その音楽家の所で作ったタブラの演奏を聞かせてもらいました。
注文の大きさより随分小さくなってしまいましたが、金属や木のタブラよりもずっと響きが良いと喜んでくれました。私もジーンときました。そして私は音痴だけど音楽が嫌いな訳じゃあないんだと気付きました。
大笑いされた悔しさで音楽なんて大嫌いと思い込んできたけれど、プロじゃあないんだし、笑われたって下手くそだって自分が楽しく気持ち良ければそれで良いんだな あと感じました。そして偶然同じ時期、コカリナという可愛い笛をプレゼントしてもらいました。音符を見て指使いさえ間違えなければ曲になる、私でも音楽を楽しめる。それは物凄い感動でした。
思い込みという心の垣根を取り除いたら、見えてきた別の楽しい世界。私たちの周りには楽しい事や感動するで満ち溢れているんだと分かりました。

写真は向かって右の大きい方が制作した焼き物で作ったタブラです。もう一つはコカリナです。