時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「陶芸家目指して」

「そこで何をしているんですか?」
良く聞かれる質問です。今まではただ「楽しく生きてます」と答えていました。
でも4月にある出来事があって、「私はここで何をしたいんだろう」と真剣 に考えることになりました。
どうして私はここに居るんだろう?何をしたいんだろう?私の価値ってなんだろう?
自分で全て選択してきたつもりだったけど、よくよく考えてみれば人の行動に乗っかってきて今があるだけだと気付きました。他人に頼らないとか自分 一人で生きて行くなんて、これっぽっちも思わないけれど、自分の夢とか目標を持ってそれに向かって自分の足で進む覚悟が必要だと感じました。
私はパタゴニアで日本語を教えたり、豆腐やみそや寿司を作って売ったり、日本人である自分を大いに利用して生活しています。それだって私のような 半端者ではブエノスや他の都市では通用しなかったでしょう。エルボルソンという地区だからこそ出来たことです。犬や猫を囲ったり繋いだりせず一緒 に暮らせるのも、草刈りもしない畑で好き勝手に作物を作ることも、木や果実の種を蒔いて成長を見守ることも、全てここだから出来るのです。私が一 番私らしく居られるのはここだと分かりました。嫌なことや悔しいこと不安なことに目を向けたらきりがないけれど、面白い事や楽しい事はそれ 以上にあるのです。
そして「私はパタゴニアで陶芸家やってます。」と自信を持って言いたくなったのです。
自分の土地から粘土を採取し揉んで熟成させ、作陶し、釉薬を灰や石から作る。
そこまではやって来ました。でも一番大切な「焼き」を助手はして も一人でやったことがありませんでした。それじゃあ中途半端も良い所。それで一人で焼いてみることにしました。けれども普段焼く穴窯では大きすぎ て体力的にも時間的にもまだ無理なので、小さなとっくり窯で焼くことにしました。15時間前後の焼きを目標にし、夜に弱い私は明るいうちに窯止 めが出来るように時間を逆算、早朝5時に始めることにしました。5月のパタゴニアは冬の始り。8時過ぎても明るくなりません。ですから窯詰めは 前日にしてしまい、4時半に起床、犬猫に早いご飯をあげ、掃除も炊事も洗濯も一切放棄して窯焚きに専念しました。
お腹が空いたら作っておいたアン パンをかじり、のどが乾いたら水を飲んで、
ひたすら焼き続けました。
温度計は使わないので、炎の色と作品の光り具合で判断します。せっかちな私は薪を詰めすぎ還元で焼いてしまい釉薬にぶくが出てそれが最後まで溶け て くれませんでしたが、「よし」と判断して窯止めしたのが夜の7時、あたりはうす暗くなっていました。
翌日は首と太ももが酷い筋肉痛でしたが、「私でも出来たんだ。」と嬉しくて仕方ありませんでした。
3日後の窯開けは緊張して手が震えました。
正直自信が無かったけれど、念願の白蒼が出ていました。反省点はいっぱいあります。でも次につながる反省ができた事は大きな収穫でした。
次回の窯焚きは使った薪の量を自分で用意出来た時と決めました。松を切り出し、枝を払い、薪用に切って割る。無理せずマイペースで作業していま す。多分6月中には第二回の窯焚きが出来そうです。
陶芸家と言えるにはまだまだ先は遠いですが、一歩ずつ自分の意志と足で進み始めたと自信が出来てきました。最終的には窯作りまでを目標とします。
私の焼いた割りざんしょに旬の山菜を盛り、自家製果実酒で乾杯。ご一緒に如何ですか?