時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「夢の実現」

アルゼンチンに移住した時、パタゴニアの土地探しの時、そしてのうじょう真人に暮らし始めた時、どんな時でも私にはいつも実現させたい夢がありま した。もちろん今でもあります。思いは必ず叶うといろんな人から言われますし、私もそう信じています。でも私の場合、気力が足りないのか、夢の実 現には長い長い時間がかかります。
焼き物を始めたのは18年前、のうじょう真人に暮らし始めてからです。最初は自分たちで使う食器が欲くて始めたのですが、窯を作り、粘土も釉薬の 材料もパタゴニアの自然の中から探すという、日本では当たり前ですがアルゼンチンではほとんど誰もやっていない焼き物をやってきました。そしてブ エノスアイレスで展示会を実現させた8年くらい前から、少しずつ私たちの焼き物を好きだと言って下さる方が増え、気がつくと焼き物は私の生活の一 部になっていました。
不器用で集中力の足りない私は、作陶も遅く、技術的にも下手くそです。でも作る時はいつも一つ一つに思いを込めています。そして何時の頃からか、 「結婚式の引き出物を作ってみたい」というのが私の大きな目標、夢になっていました。
そしてその夢が形は少し違いますが実現したのです。
日系のブエノスアイレス在住のお嬢さんが、ご自分の結婚式で鏡割りをしたいとおちょこの制作を依頼してくださったのです。ただ180個のおちょこ の制作は夏の窯焚きが山火事防止から難しい事や、作成期間が短い事もあって、残念ですが最初はお断りしました。でも数多くいる陶芸家や焼き物製作 所の中から、私たちに最初に依頼して下さった事が嬉しくお祝いとしてお送りしたいと勝手に作り始めました。
大量に同じものを作る事も、お猪口に寿の字をいれることも初めての経験でした。作陶は何度でも作り直しはできますが、窯焚きは薪の関係や入る作品 の数の制限、期間の問題からやり直しはできませんでした。
素焼きの段階で割れてしまうという初歩的な失敗と、寿の字を浮き立たせる事がうまくできず、結局100個のおちょこしか出来ませんでした。
でも私は本当に幸せな気持ちでした。嬉しくてたまりませんでした。作りながら「ありがとう」「おめでとう。」「お幸せに」と繰り返していました。
おちょこは今ブエノスアイレスに向けて移動中です。私の押しつけのお祝いですが、気に入ってくれると嬉しいなあとドキドキしています。そして ひょっとしたら結婚式に何かの形でおちょこたちが参加させてもらえるかもしれないなと、恥ずかしいような誇らしいような気持ちでいます。
おちょこたちを包装しながら、「いっていらっしゃい」と幸せな気持ちで言葉をかけていました。私のできる唯一の事は、心をこめること。これからも 心をこめて作り続けて行こうと改めて思いました。
夢は実現するものなんですね。だからばあさんになった今でも、大きな夢を持ち続けて行こうと思っています。