時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアで育つリンゴの木」

のうじょう真人のリンゴは野生のリンゴです。選定しません。消毒も殺虫も全くし ません。肥料も与えません。殆どが種から芽を出した場所で大きくなって、移植も接木もしていません。摘果もしません。本当にほったらかし。花 が咲いたら愛で、実が熟したら食べるだけです。私がリンゴを育てているのではなく、私がリンゴに育てられているから、それで良いのです。
種から芽を出し育ったリンゴは、大体がまっすぐ上に伸びていきます。ところが、 一本とても変わったリンゴの木がいます。2001年生まれのこの 子。朝日を一番早く浴びられるし、周りに大きな木もないし、畑の中に居るので野うさぎにかじられることもないのに、なぜか3歳のころ枝分かれしてまっすぐ上に伸びなかったのです。冬に霜で焼かれ てしまったこともありますが、同じ様に焼かれた子は一杯居るのに、このリンゴの木だけがこんな風に育っているのです。この木、実は友人の長男 誕生記念樹です。記念植樹したわけではありませんが、同じ年に生まれ、家に近くいつでも目に付く場所だったので、勝手に彼女の長男君の名前を つけて「○○りんご」と呼んでいます。こんなお金のかからない実のない出産祝いでも、彼女はとても喜んでくれました。郵便料金がまだ安かった 頃は、毎年葉っぱを送って成長を楽しんでもらっていました。
友人にとっては世界でたった一本の特別なリンゴですが、私は周りの草刈もしない し、特別手をかけることもしません。その代わり、この木は周りの自然たちが慈しみ大切に育てている気がします。
今年も葉を一杯つけましたが、花が咲くにはまだまだ時間がかかりそうです。枝分 かれして成長もゆっくりなとても個性的なリンゴです。このリンゴがこんなに個性的なのは、遠く離れていて、一度もあったこともないけれど、友 人親子の気持ちを一杯感じて受け取って育っているからなんだろうなあと感じています。
別に一般的なリンゴの様に成長する必要もないし、ゆっくりでもしっかり大地に根 を張って育っていくほうが良いんだし、この子がこの先ここパタゴニアでどんな風に成長していくのか、私はとても楽しみです。
気持ちや思いは目にはみえないけれど、こうして形になって現れるものなんでしょう。
一番最初の実は彼女親子に収穫して食べてもらうつもりです。