時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「たみちゃん」

実は私、ずっと「犬」派の人間でした。子供の頃から動物は大好きで、いつも犬を 飼っていました。猫の時期もありましたが、これは家族が飼っていて、動物に対してしつこい私は猫に嫌われていました。
アルゼンチンへ来て直ぐに、日本人移住者の大先輩のご家族に生後一ヶ月の子犬を 譲って頂きました。「ちょり」と名づけたその子は、2週間キャンプしながらのパタゴニアでの土地探しも一緒でした。
広い土地に移り住めて、治安の関係からもいつも犬は2匹か3匹は我が家にいます。勿論つなぐことも無く、いつも自由に走り回っています。そしてねずみ 対策のために猫も飼い始めたら、私は猫大好き人間に変わってしまいました。犬も大好き、でも猫との暮らしがこんなに楽しくいとおしいとは知りませんでした。
写真は「たみちゃん」です。この子は今年6歳の末娘です。仲良しでいつも一緒だったお兄ちゃんの「福時」が家出して帰って来 なくなってからは、私にべったりになりました。おしゃべりで少しわがままで甘えん坊です。でもとても人見知りで人が来ると隠れてしまって「幻 の猫」となるので、彼女を見た人は殆どいません。
さてさて今回は読む人にとってはとても退屈な猫自慢となりつつありますが、私は 「たみちゃん」からとっても素敵な心を学びました。それは無償の愛です。
私は「たみちゃん」がもし家出して他の人の所へ行ってしまっても、それが彼女の 意思なら、受け入れます。寂しいしその人に嫉妬もするけれど、何処にいても何をしていても彼女の幸せを心から願います。去ってしまったことを 恨まないし、反対に選んでもらえなかった自分を反省します。
私はそういう心をずっと知らずにいました。いつも自己中心で利己的でした。必ず 見返りを期待していました。それが無いと悔しいとか悲しいとかそんな負の感情ばかりでした。勿論ダメな私は今でも、この年になっても、そんな 感情に支配されています。でも「たみちゃん」のお陰で、そんなのおかしいよ、他人の感情も受け入れなければいけないよ、見返りなんて必要ない よ、と思えるようにもなりました。
そして自分の側にいなくても、自分以外の人を選んでも、やっぱりいつまでもその 人のことを大切に思える、その人の幸せだけを願える人を見ると、その心の純粋さを羨ましく嫉ましくさえ思えます。今はたみちゃんや他の犬猫た ちだけですが、私もいつか人に対してもそんな優しい感情が持てるようになりたいです。

パタゴニアは春です。今農場はさくらんぼやプラム、ボケ、たんぽぽ、チューリッ プの花が満開です。陽だまりでは野生ランの花も咲き始めています。ポプラも濃いオレンジ色の花が咲き木が燃えるように輝いています。畑ではソ ラマメや麦の芽が出始めました。
さあ、頑張ろう!顔を上げて前に進もう!とパタゴニアの自然が、春が、私を暖か く包んでくれています。