時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

また会おうね。ありがとう。

猫の福は私の自慢でした。

「この子、もうすぐ20歳になるんだよ」と言うと、誰もが驚きました。

それは福が毛もフサフサで、しゃんとしていて、かわいい声で鳴いて、撫でると物凄く大きなゴロゴロ音を響かせて、歯もほとんど揃っていて、どこからどう見ても20歳になる猫には見えなかったからです。

最近は1日のほとんどを寝て過ごしていましたが、気が向くと膝に乗ってきたり、お腹が空くとかわいい声で催促してきました。

束縛されるのが嫌いで、無理に抱っこをするとシャーと怒って飛び降りました。爪切りも一苦労でした。

猫用出入り口を作って、自由に外に行けるようにしていました。

それでネズミをわざわざ家の中に運んで来て、時々逃げられて大騒ぎになったり、朝起きたら鳥の羽が部屋に氾濫していて真っ青になったり、3ヶ月家出して帰ってこなかったりと今なら笑える出来事も数多くあります。

犬達のように私にべったりではなかったし、付いて回ることもありませんでしたが、私のパタゴニアでの暮らしの大切な相棒でした。

 

突然何も食べなくなって、水ばかりを飲むようになって、決して失敗したことなかったのに、お漏らししてしまうようになりました。

それでもそんな状態で1週間私の側に居てくれました。可愛い声も、ゴロゴロ音も聞けなくなったけど、苦しそうに呻くことも、痛がることも、徘徊することもありませんでした。

 

私はただ薬草水で湿らせた脱脂綿で顔を拭いてあげ、薬用cannabisを口に含ませてあげることしか出来ませんでした。

病院に連れて行くことは考えませんでした。

福は車が大嫌いだったし、強制的に何かをされる事も嫌がったし、もし連れて行っても、点滴をうつくらいしか方法は無いと思ったからです。

動物はきちんと自分で逝く時を知っているから、私が何も決めることは出来ないし、邪魔してはいけないと思いました。

 

福を埋めてお別れしても、涙は出ませんでした。

まだ早いよ。一緒に20歳の誕生日をお祝いする約束したじゃない。そんな思いもありましたが、それ以上にありがとうと言う気持ちで心がいっぱいで、若い頃のように、もう会えないんだと悲しくて大泣きすることはありませんでした。

今は会えないけど、私がそっちの世界に行くのは、遠い夢のような時間では無いと実感できる年になったからかもしれません。

 

また会おうね。

またグルグル音聞かせてね。

一緒にいてくれてありがとう。

こんな優しい気持ちにさせてくれてありがとう。

楽しかったね。

大好きだよ。

 

私と最後の時を過ごし、看取らせてくれて本当にありがとう。

 

福のように逝きたい。

福のように優しい気持ちを残して行きたい。

そして何よりも福のように生きたいと思います。

 

 

 

 

福のお気に入りの場所

主のいない場所