時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「受け取ったもの」

よく言われることですが、この年になっても私は常識が無く言葉を知らず、人付き 合いが下手です。ですから自分から知らない方に会いに行くことはありません。新しいことをどんどん吸収して外に向かって付き合いを広げていく 事が出来ず、自分の中にこもることで安心してしまいます。それでもありがたいことに毎年新しい素敵な出会いがあります。
7月 は日本から移住したご一家と知り合いました。日本の原発事故をきっかけに知人のいるチリパタゴニアの小さな村に移住を決意されたご家族です。
テレビもネットも見ない私は世界の情勢から遠く離れています。もともと無知です が、現在はそれに輪を掛けて物を知りません。ですから彼らから聞く世界情勢はただただ驚きでした。想像以上に早く科学は恐ろしい方向に突き進 んで行っている、環境は破壊されている、と感じました。それでも深く落ち込んだり、絶望したりしませんでした。それはその若いご一家の持つ明 るい希望の力のようなものを強く感じることが出来たからです。
そして自分についても深く考える事が出来ました。
隣人が増え、時所構わずかき鳴らす騒がしいだけの音楽にうんざりします。でも私 は電気の恩恵を受けています。電気があるお陰で、助けられていることが多くあります。だったら隣人の音楽も受け入れなければいけないのです。
大好きな山がスキー場開発で破壊されています。だから雪が降らなければいいと本 気で願っています。でも山に雪が降らないと言うことは、里に雨が降らないと言うことです。旱魃が進んでいると不安に思っている自分と矛盾しま す。
時に理不尽な事で悔し思いをするけれど、人と関わるとはそういう事かもしれませ ん。そして人がいるから、私の生活を支えてくれる豆腐や味噌や焼き物が売れ、日本語教室が持て、人の温かさも感じることが出来るのです。
雨が多く湿気が大変だという彼らに「水は重要だから、その環境を大切にしなさ い。」なんて偉そうに言ったけれど、旱魃で大変と愚痴る自分に「洗濯物が乾くし、食物保存の天日干しが上手く出来るんだから、その乾燥をあり がたく思いなさい。」と言い聞かせました。
彼らの購入した土地には電気も無く、車の入れる道も無く、緊急連絡は無線、隣人 も数キロ先だと言いますし、一番近い村には日本食は勿論、味噌や豆腐を作りたくても大豆さえ手に入らないそうです。羨ましいなあと思う反面、 柔な私では絶対に住めないだろうと思います。だから彼らにアドバイス出来ることなんてありません。反対に彼らの前に向かって進む力強さに多く の事を教えて貰い、自分を反省することが出来ました。
家族を持てなかった私ですが、子供や孫の成長を慈しみ楽しむとはこういう事なの かなあ??とほんの少し感じることが出来ました。
最後になりましたが、彼らのサイトと本を紹介させていただきます。
http://www.seedman333.org
http://www.kaitouchearth.jp/


著書:「地球を歩く、木を植える」
エイ出版社
http://www.sideriver.com/ec/products/detail.php?product_id=1619