時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアは良いな。何でも楽しめるよ。」

6月15日の木曜日、私は街で日本語教室をしていました。その日は冬にしては暖かく、天気予報で週末は雪と言っていたのを、又大外れ!と笑って聞いていました。
ところが午後から雨になり、家へ帰る頃にはみぞれに変わり始めました。我が家は街より標高が200m近く高く、家に着く頃にはみぞれが雪に変わり始めたのです。久しぶりの雪か、とウキウキしました。
翌朝目覚ましが鳴ったので起きようと思ったら停電です。よく停電があるので枕元には常に懐中電灯を置いています。外へ出てみると景色が一変していました。正しく「しんしん」と雪が降っていて、かつて無いほど雪が積もっています。「凄い!」何が凄いんだか言葉に出来ませんが、兎に角凄いの一言です。明るくなるのを待って歩いて見ましたが、雪は膝より上まであります。しかも水分の多い雪の重みで木が倒れ、枝がしなり道が塞がって進めません。その景色に圧倒されました。
雪が小降りになるのを待って取り敢えず歩けるくらいにしようと木の整理を始めましたが、べた雪でカッパを着ていても直ぐにびしょ濡れになり冷たくてかないません。でも公道へ出るまで500mはあり、自分の敷地である以上自分で何とかするしか無いのです。2週間は掛かると覚悟を決めました。でも面白いことに、前日街でいつもより多めに買い物をしていて1ヶ月くらい困らない蓄えはありました。
雪のジャングルを「ごめんね。重かったね。切らせてね。」と木に声をかけながら作業を進めました。でも雪の中を肩まで埋まって歩き回る犬達と一緒に、面白いなあと感じていました。
道を切り開くのは思ったよりずっと早く4日で出来ました。1人でなかった事も運が良かったです。電柱が倒れ電気が復旧したのは10日後でした。水路から引いている水も何故か止まり5日間は水も無く、常に水を貯めてある外の大タンクからポリタンクに水を汲んで使っていました。
電気が無い、蛇口から水が出ないと矢張り不便です。大切な収入源の豆腐作りも出来ず困ります。でも10日や2週間くらいなら、そんな生活を面白いと楽しむ事が出来ます。
雪は白では無く、透き通る青、氷河色だと知りました。とても綺麗でした。ずっと読みたかった本もろうそくの明かりでじっくり読む事が出来ました。時々聞こえる隣人の煩わしい大音響の音楽も無く、車の音もチェーンソーの音も聞こえず、心に沁み通る様な静けさと安らぎを味わいました。
エネルギーって、本当はそれ程必要じゃ無いんだと改めて思いました。あんな酷い原発事故があったのに、日本人は未だにエネルギーの無駄使いをしていると感じました。便利さと生活の真の豊かさとは別だと実感しました。
雪が溶けたら道の脇に寄せただけの折れた木や枝の整理が待っています。冬の名残と楽しんでいこうと思います。