時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「エルボルソンの習字教室」

私は字が下手です。勿論習字も下手です。根気も精神力も集中力もありません。そ んな私がたまたまパタゴニアのエルボルソンに住んでいるというだけで「習字教室」をしているんですから、不愉快に思われる方も大勢いらっしゃ ることでしょう。(昨年のテレビ放送で私の日本語教室を見て“言語学も勉強していないやつが日本語を教えるな”とお叱りを頂きましたから。)
でも「習字を教えて。」と頼まれ、「私で出来る範囲なら・・・。」と懲りずに引 き受けてしまいました。それはアルゼンチンでは日本文化や日本食が注目され始めているけれど、時々「えっ??」と思うような誤解があってもど かしい思いをしていて、私はいい加減な日本人だけど、それでも50年 近く日本人をしていて、30年間は日本に住んでいた日本人なの で、その経験を生かせるんじゃあないかと思っているからです。
日本の姉から墨、筆、半紙を送って貰い、すずりと文鎮は焼き物で作り5月から週 一回町の文化センターで始めました。時間が月曜日の昼1時からということで、休まず来るのは3人だけですが私にはちょうど良い人数です。
小学生の頃はずっと習字教室に通っていましたが、もう何十年も墨をすり半紙に向 かった事がありませんでした。「習字は書くことよりも、気持ちを落ち着け、素直に自分と向き合い、集中することから始めます。」なんて偉そう なことを言いながら、実は自分自身に言い聞かせています。でも墨をすり始めると不思議と気持ちが引き締まってきたのには驚きました。
生徒さんにはそれぞれの希望にあわせ課題を決め、練習しています。半紙がここで は手に入らない貴重品なので、練習はわら半紙や新聞紙を使ったり、左利きの方の筆使いに困ったり、始筆、送筆、終筆のスペイン語の説明がうま く出来なかったり・・・苦労の連続ですが、とても充実した時間を過ごせています。
当たり前のことですが、それぞれの個性が習字にはっきりと出てくるので面白いで す。そして回を重ねる毎に上達していくのが手に取るように分かり、生徒さんも私もとても楽しんでいます。
「参加したいから、夜の部もやって。」と頼まれますが、「習字教室やるなら始め にもっとあなたが練習しないと。」との的確なご指摘もあり、能も無いのに調子に乗って手を広げると後で大変なことになりそうなので、とりあえ ず宣伝はせず、週一回お昼だけで細々と続けて行こうと思っています。
でもこんな形で自分が子供の頃経験したことが生かせるなんて、なんだか不思議な 気持ちがしています。