時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「私のお宝山」

パタゴニア緑化活動や友人たちとのキャンプなどで、夫は最近パタゴニアの内陸部、乾燥地帯によく行きますが、その反面、私は家に残って犬猫たちと留守番をすることが多くなっていました。それでもガソリン代が今ほど高くなかった数年前は、焼き物の材料探しに私も日帰りでよく乾燥地には行っていました。どこまでも続く木の無いからからな風景は、珍しくはあっても美しい風景だとは思えませんでしたが、南米ダチョウ、グアナコ、アルマジロ、フラミンゴなどの数少ない野生動物に出会える楽しみや、マジンにはない粘土や砂など見つける面白さに溢れていました。

乾燥地行きは往復500KMはざらで、木陰の無い炎天下のドライブ、風が吹き荒れるパタゴニア独特の気候、野生の動植物や鉱物は注意力がなければなかなか見つけることが出来ないため、興味のない方にはただ退屈で辛い旅になってしまい、私たちも気軽にお客様を案内することはありませんでした。

ところが先日遊びに来た友人は、自らこの過酷な乾燥地行きを希望したので、私も本当に久しぶりに一緒に行くことにしました。

幸いな事に、当日はうす曇で焼けるような直射日光を浴びずにすみ、普段は吹き荒れる風もほとんどない、穏やかな旅になりました。

目的は「珍しい石探し」。広大な乾燥地で、どこに何があるか普通の人にはなかなか分からないのですが、乾燥地での緑化活動や、地元の友人とのキャンプなどで、珍しい石のあるポイントを夫は幾つか知っていました。

最初に連れて行ってくれたのが何の変哲もない瓦礫の丘。周りの丘となんら変わりはないように思えたのですが、いざ登ってみると、足元にきらきら光る水晶の石が転がっているのです。

もちろん、注意深く見ていかなければ見つけることはできませんが、コツさえつかめば、目が自然に水晶に吸い寄せられるようになります。

パタゴニアのお土産屋で、磨かれ加工され高価な値がつけられている石ですが、こうして自然の中で自然のままに転がっているのです。

私は自然の美しさと不思議を改めて感じました。

私たちは歩き回って、気に入った石の幾つかを思い出として持ち帰りました。磨かれていない石は、お土産屋に並んでいる加工石の様な輝きはありませんが、それ以上の自然の輝きに溢れていました。

パタゴニアの乾燥地は、こういった石探しや、野生動物の密猟、化石の盗掘、鉱山開発で荒され始めています。私たちもその仲間と言われてしまえばそうかもしれませんが、お金の為にはしていないつもりですし、私有地に勝手に入ったり、植物を踏んだり、ごみを捨ててきたりは決してしません。

苦労してたどり着き、苦労して探し、その中から本当に気に入ったものだけを思い出として持ち帰ることにしています。

そうは言っても、強欲な私はこの石達の価値に目がくらんで、いつ悪い道に進んでしまうかもしれませんので、あまり頻繁に行かないことが賢明かもしれません。

今回はもうひとつ別の丘での別の石探しもし、往復700KM、15時間の旅をして無事家に帰り着きました。案内した友人も楽しんでくれた様です。

拾ってきた石を手に取り、あの光る丘を思い出します。それは私の心の中のお宝山です。

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写真解説


パタゴニアの多くの粘土は約1080℃で融けます。しかし純粋な粘土、あるいは理論上は粘土は1700℃で融けるそうです。

そこでここパタゴニアでは耐火温度を下げる物質が砂漠化によって蓄積されたと同時に耐火温度を上げる物質が粘土になれなかったのではないかと考えました。耐火温度を上げる物質が粘土になれないと、石か砂の状態で存在すると考えました。そして実際乾燥地帯へ行くと白い石がゴロゴロしていました。面白いことにそれらの石を焼いてみると、ここら辺の粘土よりも耐火温度がやっぱり高かったのです。

写真よりも小さい石英の結晶なら割とゴロゴロしています。ここまで大きい結晶はなかなか見つけられません。