時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「山火事」

パタゴニアに暮らし15年近い年月が流れました。

日本よりゆっくりした時の流れの中に暮らしていても、気が付くと多くの事が変わっていて驚きます。のうじょう真人の木々が成長した事、実のなる木が増えた事、新しい友人が出来た事、日本との連絡手段がスムーズになった事など嬉しい事もありますが、「このままでいいんだろうか・・・」と不安になる事の方が正直多いです。

一番恐いのはやはり自然破壊です。住民が増え、観光客が増えると同時に、みるみる自然林が減り、ゴミと雑音と車が増えました。

そして緑の減少に比例して、雨が降らなくなり乾燥化してきました。

砂漠に雨が降らないのは、砂漠という自然環境だから当たり前なのではなく、緑が無くなり砂漠になったからだと故福岡正信氏が言っておられますが、その言葉を実感しています。

毎年毎年大規模な山火事が発生しています。原因は放火、アサードの火の不始末、煙草のポイ捨てと全て人為的な事です。

ここ2年、雨季と言うべき冬にも雨が殆ど降りませんでした。かつて無いほど大地は乾燥しています。

エルボルソン周辺は万年雪を被ったアンデス山脈に囲まれ、リオアスール、ケムケムトレウという川が湖に流れ込み、一見すると緑の多い自然の美しい場所に見えます。空は碧く、湿気がないので朝夕はすがすがしい空気に満たされ、星も綺麗です。

そう言った自然を満喫するのはとても良いことだし、ここを楽園と感じてくれることも嬉しいことです。

でも、大地は干からび始めています。万年雪も数年前の三分の一程に減りました。空気の乾燥は息が詰まる様な気がします。このまま行くと数十年後にはここは確実に砂漠になります。

1月16日にエルボルソンのゴミ捨て場周辺に発生した火事は、みるみる広がり自然林を1400ha焼いて燃え続けました。雨を期待する以外消火の術はありませんでした。

国道からは煙の立ち上る山が見え、風向きによってはマジン村にも火が来る可能性があったのでとても恐かったです。幸い25日に奇跡の雨が降り鎮火しましたが、焼けてしまった森は戻りません。

誰もがこの山火事を悲しみ、一刻も早い鎮火を祈っていました。それでもくわえ煙草で歩く人が後を絶たず、薪を燃やして行う野外アサードをあちこちでしています。

大袈裟だと言われても、口うるさい奴だと言われても構いません。

どうか野外で火は使わないで下さい。煙草も吸わないで下さい。水の無駄使いはしないで下さい。登山道を広げて歩いたりせず、緑を、自然を大切にして下さい。

そしてもし機会があれば、焼けてしまった山に、今日食べた林檎の種を播いて下さい。