時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「襲来」

寒くて薪ストーブを一日中焚いていたその3日後から、気温が30度を超える猛烈に暑い日が続いています。湿気がないので日陰では何とか凌げますが、それでも時々熱風が吹いてきて驚きます。
3年前から、こう言う暑い日が続くと、恐怖の夜が3日間やって来るようになりました。今年はそれが20日の夜からでした。
日中の猛暑で暑くなった家の中は夜になっても気温は下がりません。寝苦しい夜でした。真夜中、ポトリ、ポトリと上から何かが落ちてくる気配で目が覚めました。
「ああああ〜、今年もやっぱり来たか!」
電気をつけると、床や壁には茶色いシロアリが一杯這っています。
そして天井を這っていた奴が、根性も、遠慮もなく、私の布団の上に落ちて来るのです。
最初の年はとにかく驚き、ゾッとするよりも、住み着かれてまた柱を食べられたら堪らないと、手の届く限り朝まで打ち落としていましたが、今年はもう慣れっこで、顔や体に落ちてきた奴だけを「申し訳ないねえ〜」と叩いて払っています。
そして4日目に部屋中の掃除と布団干しをしながら、夏の風物詩が一つ終わったなと一息ついています。
シロアリと書きましたが、正式には何なのかよく分かりませんが、こちらではテルミータと呼ばれています。大群で飛んできて、羽を落として家に入って来るのです。
他の人に聞くと、これはもうずっと以前からエルボルソン近郊の林のある地区では毎年ある事だというのです。

ええ?何年も前から?だって私は20年以上暮らしているけど、こんな事が始まったのはたった3年前からだよ…。

一体何が目的で、何処からやってきて、そして何処へ行くんでしょう?
3年前は運悪く?柱に住み着かれ食べられましたが、他の人曰く「まっさかあ〜。柱なんて食べられた事ないよ。」
ちょっと信じられない言葉ですが、あれ以来、確かに我が家も被害はありません。

先日チリのパタゴニアに住む友人からも、同じ現象があると聞きました。
それにしてもこの虫の存在よりも、引っ越してから18年も何ともなかったその事実の方に驚いています。どうせなら、我が家には関係のないパタゴニアの自然現象であって欲しかったです。

自然の中で過ごしたいと、林の中の貸別荘を借りた都会の観光客さんがこの現象に出くわしたら、「もう二度とこんな薄気味の悪いところへ来ない!」と半狂乱になっているかもしれません。
夏休暇のこの時期はこれだけでなく、アブやスズメバチも多く、旱魃で土埃だらけで、花も時期が終わってしまっているし、果樹の収穫には早いし、正直あまり美しい季節とは言えないのです。

それにしても、年々旱魃が進み、気温が高くなっているのは世界中何処も同じ。数年後にはパタゴニアはサボテン砂漠に変わっているよ、とある人が言いましたが、その言葉が冗談にも法螺にも聞こえないのが恐ろしいです。

夏の初めに満開で辺りを彩っていたルピナスエニシダが、今は種になって、天気の良い日には弾けて飛び散っています。
パチパチ弾け散る乾いた音が一日中農場に響いています。真っ青な空には太陽がさんさんと輝いています。
恒例になってしまった山火事も起きています。雨が降るまで消えそうもありません。残念ですが、原因は放火です。