時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「麦播き」

パタゴニアに暮らし始めてから毎年、8月20日がのうじょう真人での「畑の初豆播き」の日と決めていました。

その日から少しずつ日をずらして、空豆やえんどう豆を中心に農場中に種まきをしていました。

本来ならここパタゴニアは5月から7月にかけて大雨や大雪になり、大地は十分に水を吸い、川や水路はごうごうと流れていたのです。

ところがここ数年異常気象が続き、暖たかく乾燥の真冬を過ぎると、8月は異常低温となり、8月20日ではまだ地面がカチコチに凍っていて、とても種まきが出来る状態ではありませんでした。昨年は年間降水量が遂に例年の半分以下の500mmしか無く、「パタゴニアの砂漠化もここまできたか・・・」と暗澹たる気持ちでした。

今年も7月までは相変わらずの干魃と暖冬で、おまけにチリ側で火山が噴火、その灰がアルゼンチン側にも降り積もると言う最悪の状態でした。「夏の干魃と山火事」を冬から心配する毎日だったのですが、7月最後の日に大雪となり、その後は気温が上がり雨の多いパタゴニアらしい8月となったのです。

曇り空の8月20日、私は数年ぶりに「初種まき」をしました。私の畑仕事は地面を耕したり、有機肥料を混ぜたりしません。枯れ草の表面を鎌と鍬で刈り、そこに種を播きつけ、その後に刈った草を被せておくだけです。

今年の初播きは「空豆」では無く「麦」にしました。これは隣町の農家から50kgの大袋で購入したものです。粉にしてパンを作ったり、発芽させて米と一緒に焚いたりする食用が主ですが、その日は種として大量にばらまきました。ここ数年、水不足で豆類以外の収穫は殆どありませんが、今年は20日の初播きが数年振りに復活出来たし、翌日からは雨が降ってくれて、とても幸先が良い気がしています。

今年こそ、私は「麦穂」を収穫したいのです。これはお会いしたことはないのですが、縁あって故福岡正信先生から贈って頂いた「粘土団子の旅」の本の裏表紙に「粘土団子ではなく、穂播きにしなさい」と毛筆でメッセージを頂いたからです。ですから来年は、収穫した麦穂をばら播きしたいのです。

この3月には福岡先生とヨーロッパやアフリカを旅されたパノス氏ともお会いできそうです。私は自分勝手に、パノス氏がアルゼンチンに来られる事や、数年ぶりに雨の多い春を迎えた事は偶然ではなく、この8月にお亡くなりになった福岡先生の最後のメッセージだと受け止めています。

周りの森がどんどん失われて行く現実を見つめながら、そえでも、私達は諦めず種を播き続けていこうと思っています。

最後になりましたが、福岡正信先生のご冥福をお祈りいたします。