時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアの道路の脇で見つけたら」


数年前、隣町へ行く途中の国道沿いで、小さいですが赤く飾られた日本の祠の様な物を初めて見ました。何となく怪しげなヨガや霊気などが流行り始めた頃だったので、これも東洋の宗教が形を変えて伝わり、日本の祠を真似して奉ってあるのかと驚きました。

早速車を止めて見に行って見ると、十字架があり、中にはマリア像が飾ってありました。カトリックが90%以上を占めるお国柄ですから、至る所にマリア像があり、その前を通る時は敬虔な信者さんが十字を切っている姿を良く見かけます。でも、こんな風に赤く飾られているのは見たことが無かったので驚きました。

15年前、パタゴニアに土地を求めてキャンプ生活をしながら車で旅した時には、全く見かけなかった物です。見かけなかった物と言えばもう一つ、やはり道路脇に並べてある水の入ったペットボトルがあります。こちらは交通事故の多いこの国で、事故で亡くなった方を偲んでご家族がお供えした物だと思いこんでいました。

気にするようになったからか、それからは国道沿いだけでなく、町の郊外や分岐点など、遠出した時には必ず目に付く様になりました。数も増えている気がしました。この謎はアルゼンチンの友人と旅行した時にあっさり解けました。

赤い社は「ガウチートヒル(Gauchito Gil)」、ペットボトルは「ラ ディフンタ コレア(La Difunta Correa)」と言うのです。

ガウチートヒル」は19世紀頃亡くなったヒルというガウチョ(広大な土地で馬に乗り牛や羊の管理をする人)が夢枕に立ち、お告げをして多くの奇跡を起こした事から、そのヒルの復活を願う祠だそうです。

「ラ ディフンタ コレア(La Difunta Correa)」の方は、戦争に行ったまま戻らない夫を探していたコレア(Correa)と言う女性が、砂漠で子供を抱いたまま息絶えてしまいますが、子供は母の乳を飲み生き延び、助けられたと言う言い伝えがあります。

砂漠で亡くなったコレアを偲び、また、生き延びた子供の生命力にあやかろうと旅行く人が、道のりの安全を願い、水の入ったペットボトルをお供えしているそうです。私はアルゼンチンに住んでいながら、殆ど国内旅行をしたことがありません。ですから他の土地でもこれらを見ることが出来るか知りません。でも私の暮らす南緯42度地区では良く見かける様になりました。特に2002年の経済危機から「ガウチートヒル」は数が増えた様に思います。「苦しい時の神頼み」の気持ちは万国共通なのかもしれません。さて、アルゼンチンの人達はどんな奇跡を期待しているのでしょうか?