時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「新型インフルエンザ」

「アルゼンチンは新型インフルエンザで大変な様ですが、お二人は大丈夫ですか?」と日本からメールを頂き、正直驚いてしまいました。

良いのか悪いのか、私達の家はネットも接続出来ず、テレビも電話も無く、短波日本語放送も最近では入らず、新聞配達も来ないので新聞も読まず、つまり目に見える自分達の世界以外の情報には全く疎くなっています。

どこそこで何人感染者が出たとか、亡くなった方もおられるとか、地元のラジオニュースでは聞いていましたが、そんなに大袈裟に考えてはいませんでした。ところがそんな心配お見舞いメールを頂いたので調べてみたら、なんと、アルゼンチンでの感染死亡者はアメリカ合衆国、メキシコに次いで3位ではありませんか!しかも、北半球は夏で感染も下火になるのに、南半球のアルゼンチンは冬本番。ますますこの新型インフルエンザが猛威を奮う季節です。「あれあれ・・・」などと暢気に驚いていたのですが、7月に入ると小学校から大学に至るまで全ての学校が繰り越しで冬休み、つまり休校となり、公共の施設も閉鎖になるところが相次ぎました。そしてバリローチェでも感染者が出たことを受けて、この田舎町でもちょっとした騒ぎになっています。学校は休校、公共施設も閉鎖、そして人の集まる場所には行かないように勧告しています。エルボルソンには治療薬が無いけれど、もし感染したらバリローチェの病院まで速効輸送するので心配しないようにと繰り返し地元のラジオが放送しています。

そして私自身も遂にこの新型インフルエンザの影響を受けました。2日の木曜日、いつも通り町の文化センターへ日本語教室の為に行ったら、「今からここも閉鎖となります」と言われてしまったのです。重い教材を抱え二階の教室へ入り、ほっと一息つく間もなく生徒さんに電話で休講の連絡をしなければいけませんでした。

電話をすると、「休講だと思った。」と元気で暢気な返事です。町を歩いてもいつもと何も変わらなく、情報だけが一人歩きをして大騒ぎしている様な気がしました。

チリからアルゼンチンへバスで移動中の旅行者に、新型インフルエンザの症状が出たのでアルゼンチンの国境の町の病院に輸送しようとしたら、地元の住民が感染を心配し、車に石を投げつけ阻止したという、信じられない様な事まで起こりました。恐ろしいのはウイルスよりもエゴをむき出しにする人間だと思ってしまいました。それに、感染を怖がる事よりも、感染を怖がる不健康な自分の生活を反省するべきだと思ったりもするのです。

勿論気を付けなければいけないことです。注意するに越したことはありません。でも、情報に振り回され過敏になりすぎるのもどうかと思います。

この新型インフルエンザ騒ぎ、どこまでエスカレートするのでしょう?

「君子危うきに近寄らず。」

こういう時はとばっちりを受けない様に家で静かに陶芸三昧の日々を送るにかぎります。そして旅行者の皆さんも、あまり人の多い所や感染者の多い地区に近づかないことです。うっかり咳をしたり、熱っぽい顔をしていたら、有無を言わさず“隔離”なんて事になる・・・ことは無いとは思いますが・・・。

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写真解説

チュブット州の乾燥地帯には面白い地名の場所があります。例えばセロコンドルという所です。「セロコンドル(Cerro Condor)」で「コンドル岳」となります。


名前の通り、以前はコンドルを良く見かけたそうです。僕らが行った時は残念ながら一羽も飛んでいませんでした。またこの近くの村は「パッソ・デ・サッポ(Paso de Sapo」で「ヒキガエルの通り道」。そして反対側の村の名前は「パッソ・デ・インディオ(Paso de indio)」で「先住民の通り道」。

石や粘土を探すときに地名から推測してそこに行く時が多いのですが、「セロコンドル」、「パッソ・デ・サッポ」よりも「パッソ・デ・インディオ」の近くの方が面白い石が多くみつかりました。そのうちの一つがこの石の矢じりです。一緒に行った友達も「これだけ良く出来た矢じりは久しぶりに見た」と言ってくれるほど、実に見事な矢じりです。