時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「インコの舞う町」

私達の農場からエルボルソンの町までは約17km。山道を車で30分です。買い物や郵便物 受け取り、電気代支払いなどはエルボルソンまで行かなくてはなりません。また電話の 無い私達はメールを送ったり、サイトの更新もエルボルソンの町でします。いつもは用 事だけを済ますと大急ぎでマジンに帰ってきます。けれども先日は町の通信事情が最悪 で、私が買い物や用事を済ませても、コンピューター担当の夫はまだメールも開けられ ない状態でした。多くて週2回しか下りて来ない町です。せめてメールだけでも送ろうと 夫は頑張っていました。それで彼が終わるのを待つ時間、私は冬のエルボルソンの町を ぶらぶらと散歩する事にしたのです。
アルゼンチンの町の殆どがそうであるように、エルボルソンも100m間隔で網の目状に道 路が走っています。東西には1km、南北も2kmも歩けば郊外に出てしまう程小さな町で す。いつも車で通るサンマルティンという名前のメイン通りを避け、ピルテュリキトロ ン岳に向かって土道をのんびり歩いてみました。郵便局やスーパー、銀行などのある町 の中心部は絶え間なく車の音が響いていますが、2町も歩けば車の騒音も殆ど聞こえなく なります。
「ここら辺は貸別荘や民宿が多いんだなあ・・・」
「わあ、こんな大きなマイテンの木が残っているんだ。」
そんな発見をしながら目的もなくゆっくり歩いていた時です。突然「バタバタ・・・」 と凄い数の羽音がしたので、驚いて立ち止まりました。
目の前の木を見ると、なんとまあ、色鮮やかなインコが独特の「きゅるきゅる」と言う 甲高い声でさえずりながら、大群となって止まっているのです。地面でエサを探してし た時に、私が彼らの近くを無遠慮に通り過ぎた為、驚いて飛び上がった様です。それで も人に慣れて居るせいか、木の枝に止まってこちらを見ているだけで、遠くへ逃げよう とはしませんでした。
子供の頃、飼っていたセキセイインコのつがいを、掃除中に不注意で逃がしてしまった 事がありました。インコたちは、私の一瞬の隙をついて籠から飛び出すと一直線に飛ん で行ってしまいました。真っ青な空に吸い込まれる様に姿を消した鳥を見送りながら、 「あの子達はこんなに速く高く空を飛べたんだ」と感動した事を思い出しました。
エルボルソンの町で見られるインコの群は、近くの山に住む野生のインコだそうです。 ずっと以前、誰かが逃がしてしまったインコが増えて野生に戻ったのか、もともとここ に生息していたのか知りません。でも、これだけの大群をこんな町中で見られるのはな かなか素敵なことだと思うのです。年々森が減り、人口が増え続けてインコたちの暮ら しも大変になってきています。
枯木に止まる色鮮やかなインコの群を、何時までもこうして身近に見ることが出来ます ようにと願わずにはいられませんでした。