時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「みんな仲良し」

ローズヒップは日本でもオイルや化粧石鹸などで、その名前は知られているかと思います。日本で高級化粧品として売られている商品も、原料のローズヒップは殆どがここパタゴニア産だそうです。こちらではロサモスケータと呼ばれ、至る所に生えています。帰化植物なのですが、余程パタゴニアの気候と土壌が気に入ったのか、瞬く間に増えて行きました。

初夏にピンクの花を咲かせ、やがて赤い実が鈴なりになり、殺風景な冬の景色に彩りを添えています。

このロサモスケータ、毒のある棘だらけでこちらではとても嫌われています。これがあると野ネズミが増えて、人間に病原菌をまき散らすと大騒ぎする人も多いです。でも、そう言って騒ぐ人ほど、ゴミのポイ捨てや下水の垂れ流しを平気でしているのです。

「のうじょう真人」にも例外なくこのロサモスケータは生えています。通り道に延びてしまった枝は流石に邪魔なので切らせてもらいますが、皆のように目の敵にして根こそぎ掘り返し焼いてしまうことはしません。

私はこの花が満開になると、姿形は全く違うのですが日本の桜を思い出しとても懐かしい気持ちがします。特に花吹雪の季節が好きです。花が散った後、実が大きくなって赤く色づいていく過程も好きです。秋から冬にかけては、赤い実を散歩の時に囓って熟し具合を楽しみます。

冬は酸味のある実を煮て蜂蜜を混ぜてお茶として味わっています。種を取って乾燥させ保存もします。手間は掛かりますがジャムやケチャップも作ります。初夏には柔らかい新芽を摘んで天麩羅やおひたしにします。食用野草の少ないパタゴニアでは、例え帰化植物であっても、私達の貴重な食料なのです。

小さな棘が刺さると抜きにくく、しっかり取らないと何時までもジクジク痛み大変です。株は切れば切る程脇芽が勢い良く伸びていき、根を掘り返しても残った部分から又どんどん増えていきます。この逞しさが嫌われる原因なのかもしれません。

でも、ロサモスケータが自分で好んでパタゴニアに移住した訳ではなく、元々は人間が勝手に持ち込んだ物。それを今更毛嫌いするのはあまりにも勝手な気がします。それにこの実は冬の草のない時期に、野放しの馬や牛たちの貴重な食料になっているのです。

満足にエサを貰えない牛や馬がこの実を求めて、村道や我が家に入って来ます。柵や畑を壊されたり、ロサモスケータの種がたっぷり入った糞の置きみやげがあちこちにあったりと、正直とても迷惑です。でも、最近では入ってきた牛や馬を追い返しはしますが、可哀相で恨む気にはなれません。

ロサモスケータも牛も馬も野ネズミも野ウサギも、自然の中で助け合って生きているのだと思います。その輪の中からはみ出した人間だけが、邪魔だ、不潔だと騒いでいるのです。

「みーんな仲良し」

時々喧嘩をする我が家の犬猫達に、私が言う言葉です。それはまた、ロサモスケータを見ながら自分で自分に言い聞かせる言葉でもあるのです。