時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアの雨ときのこ」

パタゴニア、特に私の住む南緯42度地区は昨年から異常干魃が続いていました。
2000年頃から夏の高温と干魃が酷くなり、山火事も頻繁に起こるようになっていましたが、それでも冬は変わらず雨か雪が降っていました。
ところが昨年は殆ど雨が降らず、寒波の厳しい冬でした。雨が降らないので水路の水位も下がり、水の上部が凍ってしまいました。毎年冬には出来ていた小川も枯れたままでした。
雨が少ないと道もぬかるまず生活しやすいと喜ぶ人もいましたが、私は本来冬に降る雨が降らないのは、とても恐ろしい事だと感じていました。
「春先には大雨が降るだろう」との期待もむなしく、結局その干魃は夏も続きました。加えて今年は最高気温を記録するほどの猛暑でした。林の木々も干魃と異常高温で可成り枯れてしまいました。
「異常気象」「地球温暖化」と騒いでいましたが、それでも観光開発、お金儲けの為、温暖化原因の一つである森林伐採、自然破壊は続いています。
流石に今年の秋は雨で道がぬかるまないのを喜ぶ人はおらず、深刻な水不足から誰もが「雨雨降れ降れ」と願っていました。
4月から5月にかけては、地元の人が大きな袋を担いで「松きのこ(ヌメリイグチタケ)狩り」をするのが風物詩の一つでしたが、今年の秋はその姿が全く見られませんでした。それはきのこが干魃で殆ど出なかったからです。私達の農場も例外に漏れず、見るからに乾燥した林の中ではきのこの気配も感じませんでした。
ところが、5月の中旬から待望の雨が降り始めたのです。バケツをひっくり返した様な激しさの雨が一週間近く続きました。林の木々の生き返るのが手に取るように分かりました。
そして先日、雨の合間をぬって松林の奥に入ってみました。
「うひゃ〜!!」
私は歩きながら嬉しい驚きの悲鳴を上げ続けました。ここにもそこにも少し季節外れの「ヌメリダケイグチ」がにょきにょき出ているのです。2年ぶりに見る風景でした。
人間とは勝手なもの。雨が降らないと「雨よ降れ」と願い、待望の雨が降っても、降り続くと「もういい加減止んで」と文句を言っています。
でも、きのこは正直で素直です。干魃の最中はじっと土の中で待ち、雨が降るとこうして出てきてくれます。
「ありがとうね。出てくれてありがとう。」私は嬉しくてたまりません。
パタゴニアの冬の雨は冷たく、旅行中に降られると気が滅入りがちです。でも、林を覗くときのこに出会え、雨が木々と奏でる自然のハーモニーを楽しむことが出来ます。雨に降られて運が悪いなどと思わずに、雨を感じて楽しんで欲しいと思っています。