時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ピルテュリキトロン岳トレッキング」

nojomallin2007-11-26

エルボルソンの町のどこからでも見ることのできる山が2284mのピルテュリキトロン岳です。PILTRIQUITRONはインディヘナの言葉で、いつも雲が懸かっている山または雲を抱き込む山という意味だそうです。確かにこの山だけがボンとそびえ立っていてなかなか迫力がありますが、いつも雲が懸かっている訳ではなく、天気が良ければいつでもその全容を眺める事が出来ます。

車で中腹まで登ることが出来、そこから40分登るとBosque Tallado(ボスケタジャード)と言って山火事で焼けた跡を「彫刻の森」公園に再生した観光ポイントがあるので、年末年始には多くの観光客がやって来ます。ただ、私達には「割と楽な登り道」でも、都会の人には「今までの人生で一番苦しい」道らしく、そこから先に進む人は殆どいません。

でもここから1時間程の山小屋までは原生林が残っていて、木陰が心地よく、アカゲラがすぐ近くで幹をつついている姿を見ることも出来ます。

山小屋からは木の無いゆるい登りの高原台地をひたすら進みます。運が良いとここで雷鳥の親子に出会えます。そして山の反対側へ回り込むと、やっと目指す頂上が見えてきます。

ところが・・・ここが最後の最大の難関なのです。急な上り坂は岩場か砂利。砂利の場所はずるずる滑ってとても登る事は出来ません。で、岩場を進むのですが、気の小さい私は初めて来た時「いったいどうやって登れと言うの?」と心細さで涙が出そうになりました。

日本では軽登山が大好きで、山小屋でのバイト経験もありました。だから「山は初めて」ではないのですが、でも、この岩場には驚きました。当たり前のことなのですが、自分で見て、自分で選んで、自分で決めて登るしかないのです。補助の鎖やロープなどはありません。

「冗談でしょ」と独り言を繰り返しながら、それでも夫の助言を頼りに登りきり頂上に立つことが出来ました。

山頂の狭い岩場から見る景色は「ああ、パタゴニアにいるんだなあ」としみじみ感じる事の出来る雄大なものでした。アンデスの山が重なり合いながらチリまで深く続いています。プエロ湖もそこに流れ込むアスール川も見下ろせます。そして「富士山そっくり」と言われるチリのオソルノ火山も遠くに姿を見せています。エルボルソンの町が箱庭の様です。

のうじょう真人のあるマジン地区も見ることが出来、こんなに雄大な自然の中で暮らしていながら、私はどうして小さなことに怒ったり悩んだりしているんだろう、と反省したりもしました。

クリスマスからセマナサンタまでの約3ヶ月、駐車場から彫刻の森までは観光客で溢れていますが、山頂を目指す登山客は殆どいません。私達は地元の特権?で観光客の去った紅葉の美しい4月に登るのが好きです。

一昨年日本の女性を案内して登りましたが、彼女も山頂付近では「凄い・・・これはもう笑うしかないですね。」と言いながら岩場を登っていました。

下山は砂利坂を滑るように下りていきます。コツをつかんでしまえばとても楽しい砂利下りです。

日帰りで十分登れる山ですが、山は山です。十分な準備と踵のしっかりした靴で登り、山小屋で頂上へ行く旨を伝えて下さい。

一度山頂に立つと、下界から見上げるピルテュリキトロン岳がとても身近に感じ、山頂からみた雄大な風景が心に蘇って「小さな事に悩まない」と気持ちが大きくなるのです。<<ピルテュリキトロン岳へは町からRemises(レミス=ハイヤー)で行きます。片道60ペソ(1米ドル=3.10ペソ2007年11月)。帰りの手配もお忘れなく。8時間あれば十分かと思います。山火事の心配がありますので、火は使わないようにお願いします。>>