時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「乾燥地帯のオアシス、サルティージョ」

nojomallin2007-11-08

エルボルソンから約170km東の内陸地にクサーメン(Cushamen)という小さな町があります。交通の便が不便でかなり内陸の乾燥地にあるため、ほとんど知られていません。私達がその町を知ったのは友人が見せてくれた写真からでした。彼は地元の友人の案内でクサーメンからさらに30km以上先のサルティージョという場所で週末キャンプをして過ごしたそうです。写真を見た夫は、川沿いの真っ白な絶壁に興味を持ったのです。その頃夫は、焼き物に使う自然のカオリンを探していました。

「行ってみたい」

思い立ったら吉日です。早速友人に道のりを訪ね、翌週には私達はクサーメン目指して早朝出発しました。のうじょう真人の大切な仲間犬達猫達は留守番なので、二人で出掛ける時はどんなに遠くても日帰りが原則です。

クサーメンまでは間違えずに行くことができましたが、その先のサルティージョは苦労しました。友人とクサーメンの人に聞いた道のりを進むのですが、案内は無く同じ様な風景の乾燥地の中、枝分かれしている細い道を勘を頼りに進むのです。人家も無く、人にも出会いません。強烈な直射日光と砂埃。

「大丈夫かなあ・・・」と不安になった頃、やっと目印となる小さな部落に辿り着きました。そして埃を巻き上げないようにゆっくりその部落を通り抜け、少し進むと突然風景が変わり、地平線の見渡せる高台に着きました。ごうごうと水の流れる音がします。

車を下り、裂け目の様に見える所まで歩いていき、ふっと下を覗いて私は「ひょえ〜」と悲鳴をあげてしまいました。

はるか下に真っ青な川が流れているのです。300mの落差と言われていますが、何もない乾燥大地に突然ドーンと落ち込んだ川。見ているとクラクラと吸い込まれてしまいそうでした。どこかに下りる場所があるはずだと上流に向かって進んで行くと、車からでも川が見下ろせる少し開けた場所に出ました。

結構急な岩場を下りていって、私達は友人の写真で見た川沿いの砂地に着きました。対岸の絶壁は洗濯板の様に削られた真っ白な岩です。川は深く、流れが急で渡る事は出来ませんでしたが、それはどうもカオリンではなさそうでした。

当初の目的は達成出来ませんでしたが、このサルティージョは苦労して来た甲斐がありました。乾いた荒涼とした大地に突然現れる水の流れる風景はほっとする不思議な感動がありました。私は乾燥地帯や砂漠が自然の美だとは思えません。ですから乾燥地帯の真ん中でミズスマシや蛙が生きているサルティージョの水が決して涸れることが無いよう、祈らずにはいられませんでした。