時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「エプジェンの壁画」

nojomallin2007-09-17

エルボルソンから南へ約60km、チュブット州のエプジェン湖の南端にエプジェンと言う小さな町があります。国道を走っているとこの町がはるか下の方に見渡せる場所があり、秋はポプラの黄葉が見事です。以前は目立たないとても小さな町でしたが、近年は道路の舗装も進み、湖を中心とした観光地化で急成長しています。

この町には親友が住んでおり、3ヶ月だけでしたが週一回「焼き物教室」をしたこともあり、私達の農場から近い距離とは言えませんがとても身近で好きな町です。

さて、この町の名前にもなっているように、町外れにはエプジェン湖というとても大きな湖があります。狭いですが浜辺の様な場所もあり、岩場もあり、とても趣があります。キャンプは禁止ですが、アサードをする場所はあり、お弁当を持って一日ゆっくり過ごすには最高です。ただパタゴニア特有の「風」がここでは特に強く激しく、風が吹き始めたらもうお手上げです。

さて、この湖の脇の山の中に「インディヘナの壁画」が有るのは、あまり知られていません。以前はシプレスの生い茂る深い森だったそうですが、20年程前の山火事で今は見事な禿げ山となってしまっています。その山をちょっと登った所にあるのですが、道案内も出ていませんし、山の遊歩道は割と整備されているのですが、この壁画は遊歩道から僅かに外れていて知らなければ通り過ぎてしまうのです。

私は友人に連れて行ってもらいました。ごろんと転がった岩の側面によーく見なければ分からない様な虹や動物の絵が数個、紅い染料で描かれています。今では勿体ぶって「この絵の意味するところは・・・」なんて言っていますが、私はきっと誰かの無邪気な落書きだったと思うのです。でも現在の壁や塀にされている品のない落書きとは違って、森と湖に囲まれた自然の中の暮らしを楽しんで、のびのびと描いたおおらかさを感じるのです。「公園の入り口にある観光案内所にいけばガイドさんが案内してくれます。最初はこんな近い所で、たった一枚の岩に描かれた壁画に案内ガイドなんて「なんと大袈裟な」と呆れましたが、この壁画への道案内が出ていないのは、心ない人が岩の一部を壊してしまったり、ゴミを捨てたり、タバコの不始末による山火事が起こったりする可能性が有るからだと分かったのです。

落書き、ゴミのポイ捨て、火の不始末。世界中至る所で繰り返されている問題。解決がないのなら、けちくさいと言われても、地元の人だけが知っている小さな穴場があってもいいかも、と観光客ではない地元の住人の私は思うのです。