時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

のうじょう真人の野いちご

子供の頃 好きな食べ物は「苺」と「苺のショートケーキ」でした。真っ赤な苺に白いホイップクリームや練乳をたっぷりかけて食べるのが好きでした。今も好きな食べ物のトップに「苺」はあります。でもそれは、「のうじょう真人の野生の」と言う前書きが付きます。そして、見つけたらその場で何もつけずに口に運ぶのが原則です。
野いちごの株は、のうじょう真人のあちこちにあり、この時期、白い可愛い花をいっぱい咲かせています。クリスマスの頃がいつも初収穫です。形はまん丸で、大きさは親指の爪位しかありません。赤く熟した実を、潰さない様にそっと摘んで、最初にいちごの香りをたっぷりと味わいます。小さくても、たった一粒でも、1キロの栽培苺に負けない香りがあります。それから舌に乗せ、上顎で潰します。その瞬間、野いちごは口の中で甘い味と香りを残しながら溶けていくのです。本当に溶けていくのです。
「甘い」って、こういう事なんだ、と感激します。
「美味しい!甘い!みんなに食べさせてあげたいな!」欲張りな私も、この時だけは素直に思います。
でもこの野いちご、花の数程、実を食べることが出来ません。小鳥も虫も野ウサギも、みんなこのおいしさを知っているからです。トロイ私はいつも彼らに先を越され、年に数粒しか口にすることができません。ですから、思いも掛けず大粒の熟れ熟れの実を見つけた時は「やった〜」と声が出て、少しは自然の仲間に近づいたかな?と嬉しくなるのです。