時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

初物

nojomallin2006-01-19

「雨よ降って下さい。」
「どうか山火事にならないで。」
カラカラに乾いた空気の中で、立ち枯れを始めてしまった草達を見ながら、毎日祈る様な気持ちで雨雲のやって来るアンデス山脈の谷間に手を合わせる。そんな1月をずっと過ごして来ました。ところが、今年は雨、雨、雨の毎日です。1月に雨が降ることだけでも奇跡に近いのに、水たまりが出来、それが何日も乾かないという、私には信じられない様な雨の1月なのです。
エルボルソンの町に溢れている観光客の人達には申し訳ないけれど、私は初めて「ホッ」と落ち着いた夏を過ごしています。けれども、気温は例年よりぐっと低く超冷夏で、本来なら今が収穫最盛期のラズベリー(木イチゴ)の実も、まだ固い緑のままです。当然この月の主食と言うべき「空豆」も莢がやっと膨らみ始めた状態です。
農場のあちこちに4kgの種を植え付けたので、先日丁寧に見て回りました。外からはマメの形もまだはっきりせず、ひょろりと細い実が殆どでしたが、何個か「いけそうかな?」と思える実をもいでみました。
莢を開いてみると、空豆は気持ち良さそうな、ほわほわの蒲団にくるまれていました。
「まだ少し早かったね。ごめん。」
そう言いながら、大切に真綿の蒲団にくるまれていたマメを取り出しました。最初に、我が家の神棚にお供えし初収穫を感謝します。それから私は、若い柔らかい黄緑のマメを眺めて楽しんだ後、一つを生のまま口に放り込みました。
口の中で「ぷちり」と小さなマメがはじけ、甘い空豆の味が広がります。
「初物七十五日」
私の健康寿命がまた延びました。
収穫したての物を直ぐに、生のまま頂ける。土の上に生きる事の大切さ、嬉しさ、おいしさをしみじみ感じます。
人口増加にともなって、人と人のエゴがぶつかり、自然環境が大きく変わろうとするマジン。のうじょう真人も例外ではありません。怒りや失望で心が凍りつきそうになる事もあります。でも、この一粒の初物マメを口にした時、どんな事があっても、心はいつも柔らかく持っていようと思えました。