時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

手間を掛けるということ

nojomallin2005-04-30

日本では新緑の美しい季節、ここパタゴニアでは秋。のうじょう真人は黄金色に染まっています。ポプラ、リンゴ、スモモ、楓、ライラック、柳、樫、白樺・・・殆どの落葉広葉樹が黄葉しています。それは透き通る様な黄色だったり、オレンジに近い黄色だったり。それぞれの木の、それぞれの葉一枚一枚が自分らしい色に染まっています。そんな黄色の景色の中で、野茨ロサモスケータの実が真っ赤に熟し一際目立っています。このロサモスケータ、30年程前に、馬の飼料だかに混ざってここパタゴニアにやって来て、あっという間に広がったそうです。ハート型の薄ピンクの花は、ほのかな香りでとてもかわいらしいし、赤く色づいた実が、株にびっしりなっている様はそれはそれは見事です。
そして私は、程良く霜に当たり甘みを増した実を、今せっせと収穫しています。
でもこのロサモスケータ、刺さると何時までもジクジク痛む毒の有る棘だらけで、びっしりとなった実でも、ザクザク収穫する事が出来ません。棘に気をつけながら一粒一粒丁寧に取ってゆくのです。そうして収穫した実の萼を取り除き、半分に切り、種を取り出し、ザルに広げて天日干しします。ざっしり詰まった種も、とげとげの綿毛の様な物にくるまれ、それが手や服に張り付いてチクチクします。日本に居た頃の私なら「めんどくさ〜」と、絶対にしない作業です。でも、今の私はこの仕事が楽しいのです。なぜなら私は、このロサモスケータのお茶が大好きだからです。
春、新緑の芽をふき、やがて花が咲き、花吹雪が舞ったあと、少しずつ大きく、赤く色づいていく実。その全ての瞬間を愛おしく感じながらお茶作りをする。一つ一つの作業を丁寧にやればやる程、このお茶を頂く時、より深く「美味しい」と感じる事が出来るのです。
手間を掛ける、丁寧に生活する。それはこんなにも素敵な事だったんだと、今、感じています。