時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

インコ

nojomallin2006-11-13

これは 少し前のお話。
今年は春先に低温となり、例年より、花の開花が遅れていた気が します。のうじょう真人で最初に咲くのは、あちこちに植えた「水仙」です。毎朝の 霜に凍りながらも、少しずつ黄色い蕾を膨らませていく様子に、私は「春」の覚悟を します。
実は私は「春」がパタゴニアの四季の中で一番嫌いなのです。
春に なって温かくなると、隣人達の野外活動が始まります。それは建築音だったり、木を 伐るチェーンソーの音だったり、大音響で垂れ流すラジオやロックの音だったり。人 が生きているのだから、それぞれの生活音が響くのは当たり前。ましてやここは、大 騒ぎの好きな国民の住むラテンアメリカ。それを、嫌だと思う私の心が狭いのでしょ う。
けれども、早朝は空気も美味しく、静かで私の大好きな時間です。こんな綺 麗な朝が迎えられるから、私はここが大好きで居られるのだと思います。
それ は、まだ、りんごの新芽も出ていない時期でした。朝、深呼吸する私の耳に「きゅる きゅる」と、野生のインコが騒ぐ声が聞こえました。
3月には群れをなして大騒 ぎしながら、のうじょう真人の上空を飛んで行きますが、こんな春先にはとても珍し い事です。
「どこだろう?」と声のする方を見ると、家の脇のりんごの木に仲良 く2羽のインコがとまっていました。かなり近くまで寄っても逃げません。インコ達 は夢中で、木に残っているリンゴの実をついばんでいました。
昨秋は農場中のリ ンゴが豊作で、酸っぱいこの木の青リンゴは収穫しなかったのです。たわわに実った リンゴは鳥や虫にお裾分けして、私は下に落ちた実を拾い、あちこちに播きました。
そして今、僅かに木に残っていた実を、インコたちが美味しそうに食べていま す。私は首が痛くなるのも構わず、インコたちの朝食風景を眺めていました。
こ んな時期にここにやって来たと言うことは、今まで過ごしていたエルボルソンの町 に、エサが無くなってしまったのでしょうか?
急激に増えた人口は、ゴミ問題、 土地問題、水問題、環境汚染、森の消失と、様々な問題を引き起こしています。で も、私には為す術もありません。インコたちだって同じでしょう。
落ち込んで悲 しんで、だけど、それだけで終わらない様に、私は私の出来る事を続けていくしかあ りません。毎年種を播き、それらが大きくなって、いつかここが、果樹の森になるの を夢みています。
一番美味しくて大きな実を、鳥たちが「えへへへ」と笑いなが らついばんでいくのを、私は下から指をくわえて見ることができれば本当に幸せで す。
インコたち、沢山食べて行ってね。そして種を「うんこ団子」として、どこ かに播いてきてね。
リンゴもインコも私も、自然の一部。みんな同じ重さで繋 がっているんだと思います。